NECが作り上げた独自構造のアンテナは、安定した通信特性や業界最小クラスの寸法を実現したことが特徴である。ビルや宅内のエネルギー管理システム用の無線通信モジュールなどに幅広く使える。このような特徴をいかに実現したのか? その答えは、「メタマテリアルを応用」という言葉に隠されている。
ケーブルを使わずにデータをやりとりする無線通信技術。今や、限られた通信機器だけではなく、さまざまな新たな用途に活用されている。例えば、宅内の家電や機器の消費電力をモニタリング/管理するエネルギーマネジメントシステム(HEMS)や、センサーと照明を連携させたインテリジェントな照明管理システム、高齢者の見守りシステムなどだ。無線というメリットを生かせば、消費者の利便性を損ねることなく、電力消費量を抑えたり、日々の暮らしの安心・安全性を高めることが可能だ。
ただ、無線ということに起因した技術的な導入の難しさもある。例えば、わずかなスペースに無線通信のモジュールに入れ込むには、通信特性を保ったまま小型化を進めなければならない。また、無線通信モジュールを機器に実装したときの通信特性の劣化などにも気を配る必要がある。
NECが開発した「メタマテリアルを応用した小型アンテナ」は、このような無線通信システムの課題解決を目指したものだ(関連記事)。これまで無線通信システムが使われてこなかったような用途を想定し、無線でデータをやりとりするのに不可欠な部品であるアンテナの小型化や、使い勝手の高さを実現した。具体的には、一般的な無線LAN(Wi-Fi)や低消費電力の無線通信方式「ZigBee」で求められるアンテナ特性を満たしつつ、「業界最小クラスの寸法を実現した」(NEC)という。さらに、機器に実装したときの特性変動を抑制することに成功した。
実際に2012年4月には、NECエンジニアリングがこの独自のアンテナを採用した無線通信モジュール「ZB24TM-Z2701(ZigBee準拠)」と「ZB24TM-E2036(独自プロトコル)」の販売を始めており、ビルや一般家庭のエネルギー管理システム市場などを対象に、今後2年間で5億円の売り上げを見込んでいる(関連記事)。
NECがこのように多くの特徴のあるアンテナを開発できた理由は、「メタマテリアルを応用した」というニュースリリースの何気ない言葉に詰まっている。アンテナ寸法を小さくすると利得や放射効率といったさまざまな特性が劣化してしまうトレードオフの関係がある中、いかに小型化を進めたのか? いかに安定した通信特性を実現したのか? 「メタマテリアルを応用」とは、どのような意味なのか? 実際に研究開発を担当した研究者への取材を基に、その開発思想をひも解こう。
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