光を使った有線通信は高速で、電力消費が少ない。光の採用はまず光ファイバー利用の通信インフラ、次に筐体間接続、チップ間接続という順に広がってきた。最後は「チップ内」だ。プロセッサなどさまざまなチップ内で光伝送を利用できれば、タブレットなどのモバイル機器などでも光のメリットを享受できる。東京都市大学の研究チームは光伝送に必要なSi(シリコン)発光デバイスの大幅な改善に成功した。
電子機器に対する要求はさまざまだ。中でも、動作速度の向上と、消費電力の低減が常に求められている。速度のボトルネック、消費電力のボトルネックの1つが有線通信だ。これを解決するのが光伝送である。有線インターネット接続を考えてみれば、電話線(銅線)から光ファイバーへと置き換わっていったのは必然ともいえる。
伝送距離が短い場合でも光のメリットを享受できる。サーバ間や、Thunderbolt(Light Peak)のようなチップ間、最後には「チップ内」にも入り込んでくるだろう。タブレットやPCが内蔵するマイクロプロセッサの性能向上にも役立つ。マイクロプロセッサ内の信号伝送を光に置き換えるとどのようなメリットがあるのだろうか。
現在のマイクロプロセッサの課題は、内部の信号伝送に要する遅延時間の抑え込みと、伝送に要する消費電力の低減にある。マイクロプロセッサのような集積度の高いチップは、絶縁層を挟んで垂直に重なるSi(シリコン)層と層間を結ぶ金属配線の塊といえる(図1)。
トランジスタの微細化を進めていくと、トランジスタを駆動する際の遅延時間は短くなっていく。しかし、配線遅延時間は短くならない。微細化が進むほどRC遅延*1)が無視できなくなり、トータルの伝送速度は低下していく。加えて回路の微細化が進むにつれて電気信号を送る際に必要な電力も増えていく。
このように集積度の高いチップでは、金属配線の替わりに光伝送を使えば、信号の遅延や消費電力の増加を解決できるはずだ。
*1) 金属線の配線抵抗(R)と、周囲の配線との容量(C)で決まる遅延をいう。RC遅延を避けるために、上層の絶縁膜ほど厚く、金属配線幅を広く取る工夫が施されている。
チップ内で光伝送を使う下準備は整いつつある。まずは光伝送に必要な各種フォトニック回路の整備だ。高速Ge(ゲルマニウム)光検出器や低損失Si光導波路、高速Si変調器などを1つのSiダイ上に実装することが既に可能になっている。高効率の発光素子も利用できる。GaAs(ガリウムヒ素)やLEDで広く用いられているGaN(窒化ガリウム)などのIII-V族化合物半導体である。
チップ内光伝送実現への「道」はここで2つに分かれる。変調器などSiベースのCMOS技術と、既に利用できるIII-V族化合物半導体素子を単一チップ内で組み合わせる道がまず1つ。もう1つはCMOS技術だけで全て作り込む道だ。
III-V族化合物半導体を使えばすぐにでもチップ内光伝送を実現できるが、III-V族化合物半導体にはCMOS技術とは異なる製造プロセスが必要だ。そのため、量産やコストダウンが難しくなる。CMOS技術だけで実現する場合は逆だ。量産やコストダウンには向くと予想できるが、肝心の発光素子の効率が極めて低い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.