東京都市大学の研究チームは、全てをCMOS技術で作り込むために必要な発光素子の効率を高めようとしている。必要な技術はGe量子ドットと、Si光共振器だ。研究内容もこの2点に絞り込まれている。「Si基板の上にGe量子ドットをMBE(Molecular Beam Epitaxiy)法で結晶成長させる(図2)。さらにその上にSiで作ったフォトニック結晶の光学共振器を配置することで、光強度を高め、光源として利用できるようにすることが開発の目的だ」(総合研究所シリコンナノ科学研究センター長、工学部教授の丸泉琢也氏)。
SiとGeを利用する理由はこうだ。GeはSiと同じIV族の半導体であり、CMOS技術への適合度が高い。まず、Si基板の上にGe量子ドットを成長させ、Si-Ge-Siヘテロ構造を作り込む。ここで外部から光を照射すると、Si側に電子が、Ge側にホールが集まる。その後、電子とホールが再結合するとフォトルミネッセンスと呼ばれる現象で発光する。発光スペクトルは1.3〜1.6μm(ピークは1.45μm)であり、チップ内伝送に適した波長(1.55μm)の光を取り出せる可能性がある*2)。
*2) 同大学が発光原理を調べるために、外部のレーザー光で励起させた40Kにおける結果を示した。実用化するためには、電流注入による室温での発光の他、高い光強度が必要だ。
ただし、このままでは波長分布がブロードであり、強度も低く、通信には使えない。そこで共振器を使う。特定の波長だけを強め合わせて、通信に適した波長と強度の光を取り出すためだ。高効率光源を作り上げるには、Ge量子ドットの品質を高めることと、共振器の最適設計の2つが必要になる。
共振器もSiで作り込む。屈折率(誘電率)が周期的に変化する微細な構造「フォトニック結晶」を利用した(図3)。
まずはレーザー励起ながら室温(300K)での発光を実現した。2010年以降には電流注入による発光にも成功している。2010年にはマイクロディスクと呼ばれる1次元フォトニック結晶で共振器を試作、2011年にはSiに円筒状の縦穴を貫通するように多数配置した2次元フォトニック結晶を共振器として使った(図4)。Ge量子ドットと組み合わせることで、どちらも1.5μm近傍にピークを持つ発光素子として機能した。だが、発光強度が不十分だった。
これを改善したのが、今回開発した構造だ(図5)。2次元フォトニック結晶を使うという点では2011年のものと同じだが、電流を注入する方向を変えた。従来の試作品では電流を垂直方向に注入していたが、今回は水平方向に変えた。「これによって電流注入効率が大幅に向上した。これまでは素子を試作しやすいことや、構造上効率が高いと予測していたため、垂直構造を選んでいた」(丸泉氏)。
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