海外出張の準備から本番に至るまで、さまざまな「逃げ」の戦略を打ってきましたが、ついに私たちは、逃げることのできない段階にたどり着いてしまいました。それが「打ち合わせ」です。しかし、打ち合わせの内容を一切理解できないという絶望的な状況でも、打つ手は残されています。実践編(質疑応答・打ち合わせ)となる今回は、「英語に愛されないエンジニア」のための最終奥義を伝授します。
われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論」 連載一覧
今回は、本連載の最大の山場「質疑応答・打ち合わせ編」になります。
さて、今回の執筆に際しては、いろいろな文献調査を行いました。「英語で打ち合わせ」という、「英語に愛されないエンジニア」の最大の危機に対して、アドバイスしてくれる資料を見つけるためです。そのような手段があれば、ぜひ、皆さんにご紹介したいとも考えたからです。
ところが、少し気になる点を見つけました。私が調べた限り、「国際会議・英語討論のための表現事典」とか、「英語の会議に強くなる本」などがあったのですが、これらの本は、「英語を聞き取れる/話せることが前提」という暗黙の了解があるようなのです。
そもそも、こんな本が「役に立つ」人は、この連載の読者としては対象外です。
連載第1回で申し上げたように、以下の方は、この連載の読者として想定しておりません。
==============================
「英語で困ったことは一度もない」、「英会話は日本人の常識だ」と考えている人は対象外です。私はあなたが嫌いです。
==============================
私の場合、英語の打ち合わせに出ても、相手が何を言っているか、ほとんど分かりません。分からない内容に対して、どんなに優れた表現で説明を試みようとも、どんなに巧妙な論理を組み立てようとも、まったく無駄なのです。
しかし考えてみれば、相手のしゃべっている内容を理解できないような人間が、よくもまあ、海外企業のミーティングや、国際会議に出席しているものです。自分でもあきれてしまいますし、「会社は、一体、何を考えているのだろう」と思ったことも一度や二度ではありません。
私の人生最初の英語のミーティングは、本当に悲惨でした。本当に何も分からなかったのです。何が論点で、何が疑問で、何が課題で、何が結論かも不明なままでした。
――こんな結果を持ち返って帰社したら、上司は、私をクビにする前に、私の首を締めにかかるかもしれない。
なにより、私を絶望的な気持ちにさせたのは、持ち帰る報告が「正しいか否か」ではなく、持ち帰る報告が「何もない」ことだったのです。
こんにちは。江端智一です。
本日は、海外出張の打ち合わせの最終回、「質疑応答・打ち合わせ編」についてお話します。
前回、前々回で、「プレゼンテーションというのは、基本的にはあなたの一人舞台であり、原則として英語をしゃべっているのは、あなた一人であること」をご説明しました。
あなたのプレゼンの英語がどのような品質(例えば、最初から最後までデタラメな英語)であれ、それを止める人はいないと考えてよいです。しかし、質疑応答では、そうはいきません。
打ち合わせの相手は、疑問文で質問をしてきます。あなたは、その疑問文に答えなければならないのです。前述したように、相手の言っている内容が完璧に理解できるのであれば、何の問題もないでしょうが、そのような幻想を語っても仕方ありません。
それどころか、「最初から最後まで、何を言っているのか全く分からない」という打ち合わせは、確かに存在するのです。もう、その責任が誰にあるとか、そんなことを言っていられる状態でも次元でもなく、そういう場面に立ち会うことが現実にあるのです。
その恐怖たるや、――半端ではありません。
私の場合、視野が45度くらい斜めに回転移動し、突然打ち合わせのテーブルが無限に伸びて、手元にあるペンが2km先まで移動してしまったかのような、訳の分からんパニック状態に陥いることがあります。
もうこうなるとですね、英語に愛されない日本人に特有の対応とも言える、
――「とりあえず、"Yes"を連発して、その場をしのぐ」
が発動されます。
なぜ、われわれは、このような対応をしてしまうのか。それは、沈黙が怖いからです。私の責任で議事が止まっていて、皆から「早く何とか言えよ」、「時間がねーんだよ、時間が」と責められているような気持ちになるのです。本当に怖いです。
相手の会社のスタッフにしても、英語で何一つ議論できないようなヤツが、一人で海外に出張してくるとは思っていないでしょう。国際的な常識以前に、これは相手の会社にとっても「無礼」に等しい振舞いと言えましょう。
しかし、私が知り得る限り、こういう無謀なことをする日本の会社は少なくありません。
なぜなら、そもそも英語で議論できるスキルのある人間がそんなにたくさんいるわけではなく、また、仮にそのようなスキルがあったとしても、その人が、あなたと同じ分野の技術に関する知識を持っているなどという可能性は無いに等しいからです。
それなら、「グローバル化」を目指さなければ良いのですが、そうも言っていられない事情が会社にもあることは、前回お話しました。
誰も彼もが、「グローバル化なんて、嫌だーー!やめてくれーー!」と叫びながら、チキンレースに参加していることでは同じなのですが、そのチキンレースの自動車の運転席に座っているのは「あなた一人」である点だけが異なっています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.