ルネサス モバイルのLTEモデム事業は、なぜうまくいかなかったのか――。同社の戦略や企業体質や、携帯電話機市場の変化の激しさを考慮すると、撤退は避けられなかったのかもしれない。
ルネサス エレクトロニクスは2013年6月27日、子会社ルネサス モバイルが第4世代携帯電話通信用モデム(LTEモデム)事業から撤退することを正式に発表した(関連記事:ルネサス モバイル事業を清算、買い手見つからず)。世界的な傾向から見ても、撤退は避けられなかったのではないだろうか。
ルネサスは2010年に、Nokiaの無線モデム開発チームを買収して無線モデム事業に参入した。今回の撤退により影響を受ける従業員の数は、フィンランドの現地子会社で1100名、インドで300名、中国で30名の見通しとなる。
ルネサスがモバイルチップ市場での野心に燃える一方で、業界関係者の見方は懐疑的だった。そして、それから3年間の苦闘の末、ルネサスは挫折を味わうことになる。
なぜ、同社の無線モデム事業はうまくいかなかったのか。
1つ目の要因としては、モバイル機器市場におけるヒエラルキーが2010年以来、劇的に変化したことが挙げられる。ほんの一握りのスマートフォンメーカーとモバイルチップサプライヤだけが勝利を収め、市場に君臨する結果となった。このようなメーカーとはつまり、AppleやSamsung Electronics、Qualcommのことである。
自社のモバイルチップが「iPhone」や「GALAXY」に採用されなかったメーカーは、スマートフォン(特に最新型)向けモバイルチップの供給先を探すのが難しくなるだろう。
世界市場における過酷な戦いで勝利を収めるには、EricssonやNokiaが保有していたような、広く普及した最先端のセルラー技術をベースとした合弁企業をただ設立するだけでは対応できない。ルネサス モバイルだけでなくST-Ericsson(2013年3月に合弁を解消)も、過去2年間、激しく変化する市場を生き抜くことができなかった。
さらに2つ目の要因としては、ST-Ericssonとルネサス モバイルがいずれも、確固たる中国戦略を持っていなかったことが挙げられる。
両社はアジア地域において、台湾の半導体ベンダーMediaTekや中国のSpreadtrum Communications、中国国内の数多くのファブレスチップメーカーなどの競合企業に対して、大きく後れを取っていた。これらの競合メーカーのほとんどは、現在アジア地域において急成長を遂げている低価格帯のスマートフォン市場に注力している。ルネサス モバイルとST-Ericssonは、適切な製品ポートフォリオをそろえていなかった上、中国の機器メーカーからのニーズに対応するための開発戦略も持ち合わせていなかった。
そして3つ目の要因は、モデムチップの開発に必要な人的リソースの重要性を少しばかり見誤ったという点だ。
モデムチップの開発において、絶え間なく変化し続ける規格に対応するためには、深い知識と経験を併せ持ったエンジニアの存在が不可欠だ。さらに重要なのが、モデムチップは認証プロセスに時間がかかるので、アプリケーションプロセッサとは異なり、開発がなかなか完了しないという点である。モデムチップは、フィールドテストと調整作業、通信事業者からの認証が必要になる。モデムチップ開発メーカーでは、1000人を超えるエンジニアを抱えていることも珍しくない。
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