プロジェクトの続行または中止は、高度な社内政治的判断で行われるものです。
現場の下っ端であるあなたは、そのような政治に口を出してはなりません。ただ単に、プロジェクトの実体を客観的かつ正確に、幹部や上司に伝えるだけで構いません。ただし、あなたの発言はマメに議事録として取っておきましょう。
号令が必要となったとしても、それは幹部、上司または相手の会社側に「言わせる」ことに留意してください。仮に、あなたがプロジェクトの撤収の宣言をしなければならない場合であっても、「はっきり」と言ってはなりません。日本文化の粋であるところの、「物事をハッキリ言わないで、間接的、黙示的な言い方で行う」をベースとしてください。
それと ―― 私の知り得る限りの海外プロジェクトにおいて、という条件下ですが ――、このような「失敗」「撤収」に関してだけは、ハッキリと言わないのがお約束のようでした。
どんなにささいなものであれ、プロジェクトとしての実体が残っているうちに、成果をすくい上げなければなりません。協業相手とのリンクが切れた後では、新聞発表や学会発表、特許出願もできなくなります。
この際、会社の利益なんぞはどーでもいいです。あなたのキャリアのために、渇いた雑巾から最後の一滴を絞り出すのです。それには、撤収が公式に決定した後では遅いのです。
例えば、特許発明などであれば、出願人は共同出願として、必要な国に出願すればよいです。仕様書や市場報告書などは、双方の成果にできます。
ここで大切なのは、協業相手にその資料を英語で書いてもらうことです。その資料は、そのまま国際特許出願や学会発表に流用できます。また、英語のままで自分の会社に提出することもできます。多くの場合それらの資料は内容をチェックされません。「日本語版を作れ」という上司は、日本には存在しません。彼らは立場上、「私は英語が読めないから」と言うことはできないことになっているのです。
貸与している研究開発用の機器の返却は、プロジェクトの終了よりかなり前から開始します。輸出管理は特にトラブルが発生しやすい事項です。貸与期間ギリギリに返却を完了するようなスケジュールは、まずトラブルを起こします。
行政機関の手続きミスや、相手の会社の怠慢であったとしても、最終的にプロジェクトの実質的なリーダーであるあなたの責任は免れません。リーダーとは、責任を押しつけられるために存在しているものだからです。
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