AMDは、Kaveriを「APUの1つの完成形」と位置付ける。それは、他ならぬCPUとGPUのシームレスな連係が、ここに実現するからだ。しかし、このことはAMDが中心となって提唱するヘテロジニアス・コンピューティング環境、HSAではスタート地点に立ったことを意味するにすぎない。AMDは、もともとモバイル向けに設計したKaveriを、デスクトップ市場、しかもAPU単体発売でスタートさせた。これは、何よりもHSA対応アプリケーションの開発環境を整えることを急いだからだ。
その一方で、PC市場シェアが20%弱しかないAMDが、いかにHSA対応アプリケーション開発の重要性を説いても、ソフトウェアデベロッパはなびかない。ただ、コンピューティングデバイスとしての主役の座をPCから奪ったスマートフォンやタブレットで圧倒的なシェアを持つARM陣営が、HSA対応に動くとなれば話は別だ。
AMD 上級副社長でグローバルビジネスを統括するリサ・スー氏は、「現在、インターネットに接続されるコンピューティングデバイスのうち2/3が、HSAファウンデーションメンバーの製品だ」として、HSAのポテンシャルをアピールした。
さらに、AMDは、HSAがターゲットとするアプリケーションは、現在Open CLやNVIDIAのCUDAで組まれている大型コンピュータ向けの科学演算アプリや、イメージ処理ではなく、より身近なアプリケーションだとして、表計算ソフトの演算にHSAアクセラレーションを採用したオープンソースのオフィススイート「LibreOffice」のデモを披露。Collabora 副社長でオフィスソフトビジネスを統括するマイケル・ミークス氏によれば、LibreOfficeの表計算では、100以上の計算にGPUアクセラレーションを採用し、データ量の多いリアルタイムトレーディングのグラフ作成では、CPUだけで処理するよりも7倍のパフォーマンスアップを実現していると説明。もともと、複雑な計算を得意とするGPUが、CPUとメモリアドレスを共有し、シームレスな連係が図れるようになることで、一般のPCアプリケーションでも、さらなるパフォーマンスアップが図れる可能性を示した。
ただし、AMDとしても、すぐにHSA対応アプリケーションが整うとは思っていない。同社でソフトウェアエコシステムの整備を担当する副社長のマンジュ・ヘッジ氏は「当初は、競合のプラットフォームでも動作する、Open CL対応アプリケーションが増えればいい」と説明する。その背景には、「よりハードウェアに近いレベルでアプリケーションを実行できるHSA環境のほうが、パフォーマンス的に圧倒的に優位だ」という絶対的な自信があるからだ。その上で「CPUとGPUの間のメモリコピーやコヒーレンシを意識することなくプログラミングできるHSAの利点を生かしてもらえるようになればいい」と、一歩ずつHSA対応アプリケーションを増やしていきたい考えだ。
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