ARM陣営にとって、HSA対応を図るメリットは、並列コンピューティング性能を上げるだけではない。HSAファウンデーションは、そのゴールの1つにより優れたパフォーマンスを、より低消費電力で実現というものを掲げている。
これは、CPUとGPUのロードバランシングを効率よく図ることで、低消費電力かつ高性能なプロセッサを実現することを意味しており、PCよりもシビアな熱設計が求められるモバイルデバイス向けSoCを主力とするARM陣営にとって、大きなメリットとなる。また、2014年はARMベースSoCの64ビット対応が加速すると見られており、より多くのメモリ空間を利用できるようになること、HSA対応を進める上では重要なポイントとなる。
ARMは既に、Mali-T600 GPUで、GPUとGPUの仮想メモリアドレス空間共有や、CCI-400(Cache Coherent Interconnect)を利用したCPUとGPUのメモリコヒーレンシの実現などサポートしており、同GPUコアを採用するSoCベンダーがHSA対応を果たしやすい環境を整えはじめている。
その一方で、ARM CTOのマイク・ミューラー氏は、「1つのアーキテクチャで、全てのシステムをカバーすることは不可能。HSAはミドルレンジシステムに向いたアーキテクチャで、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)のようなスモールデバイスや、データセンター向けなどに検討されているメニーコアシステムでは未知数だ」と説明する。
ミューラー氏のいう“ミッドレンジシステム”とは、タブレットや高機能スマートフォンを示す。これらの製品では、1080p表示を上回るWQHD(2560×1440ピクセル)などの高解像度液晶の普及とともにGPUの重要性が高まっており、SoC内における最大の電力喰らいとなっているものもある。しかし、「GPUの演算性能をグラフィックス以外にも利用できれば、処理時間が短縮され、電力消費も少なくて済む」とMediaTek Corporate Technology OfficeでSenior Directorを務めるチェンピン・ルー氏は指摘する。
これらARM陣営がGPU利用として期待する用途の1つが、CPU負荷が高い、顔認証や指紋認証といったセキュリティ、ジェスチャー認識などのナチュラルユーザーインタフェースの実装だ。もとより、GPUはパターンマッチングなどの処理に優れており、その処理をGPU側に分担さえることで、高レスポンスかつ省電力性に優れた(バッテリ消耗の少ない)実装をしたい考えだ。
そのためには、まずはAMDのKaveriプラットフォームで開発されたHSAアプリケーションが、正常に移植され、どのくらいのパフォーマンスが発揮できるか検証を行う必要がある。その意味でも、初のHSA対応プラットフォームとなる、Kaveriの果たす役割は大きい。
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