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電力という不思議なインフラ(後編)〜原発を捨てられない理由〜世界を「数字」で回してみよう(7)(2/4 ページ)

» 2014年09月25日 08時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「あしたのジョー」にたとえてみる

 それにしても、国、原子力損害賠償支援機構、金融機関、東京電力の関係を、ふかんして眺めてみると、つくづく実感します。

 ―― 分からん。

 そこで、これらを理解するために、「あしたのジョー」のキャラクターたちに出てきてもらうことにしました。

 配役は、以下の通りです。

登場人物 出演
矢吹丈(やぶき じょう) ボクサー 東京電力
丹下段平(たんげ だんぺい) セコンド 原子力損害賠償支援機構
白木葉子(しらき ようこ) 興業主
丹下ジムに寄りつく黒コートの男 興業出資者 金融機関

 原子力損害賠償支援機構とは、賠償金でフラフラになってリングで闘っている「矢吹丈」(=東京電力)に、水や食事を与えるセコンドの「丹下段平」と思えばよいでしょう。そして、そのイベントの興業主が「白木葉子」(=国)、イベントの出資者が「黒コートの男」(=金融機関)という理解でよいと思います。

 この、「電力版『あしたのジョー』」におけるコンセプトは、「矢吹丈(=東京電力)をリングから絶対に降ろさない」です。

 丹下段平も、白木葉子も、黒コートの男も、この認識で一致しています。彼らには、矢吹丈を「真っ白な灰」にさせるつもりは全くありません。賠償金の返済が完結するまで、いつまでもリングで闘わせ続けるつもりです。

丹下段平:「ジョーよ、『試合やーめた』とは絶対に言わせねえからな」
黒コートの男:「矢吹。当面メシは食わせて(金は貸して)やるから、落とし前は自分でつけろ」
白木葉子:「でも、矢吹くん。後でちゃんと返すのよ」

 これが、2014年4月の、東京電力の黒字化の真相です(たぶん)。

 しかし、矢吹丈……もとい、東京電力は『試合(賠償)やーめた』とは言えないまでも、『原発やーめた』とは、言えるのではないでしょうか。東京電力だけでなく、他の電力会社にしても同様です。

 なぜなら、利益に対してリスクが大きすぎるからです。

 原子力発電は、普通の民間企業では対応できない超高精度な制御技術と、膨大な資本投下が必要です。そして、事故が発生した時の補償もハンパではありません。それは、今回の事故ではっきりしました。

 私は以前、自分の日記(ブログ)で、「原発で得た利益に対して、今回の原発事故で吹き飛んだ利益は、大体どれくらいなんだろう」と思って、ザックリ試算してみたことがあるのですが、当時、被害総額見積4兆円の時でさえ、76年分の利益が吹っ飛んだのではないかという推定値を出しています(参考記事:76年分の損失)。

 もちろん、「原発を、ベース電源または非常用電源とする」という政府の方針もあるでしょうし、現状、矢吹丈……もとい東京電力は、実質上、丹下段平や白木葉子……もとい、国に経営を乗っ取られている状態なので、何の発言もできないのかもしれません。

 しかし、東京電力以外の電力会社には、冷血なセコンドや興業主がいるわけではありません。今なら、『原発やーめた』と言える立場にいるはずです。

 いろいろと調べてみたのですが、この理由の1つに、「原子力発電施設解体引当金」という制度があるようです(参考記事)。

 この制度は、原子炉を廃炉にするお金を原発運用時に積立ておくというものです。子どもや孫の世代に負担させないためです。至極、まっとうな制度ですが、一体、何が問題になるのでしょうか。

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