EETJ 「完全」というのは、「失敗がない」ということですか。
古澤氏 入れたものが必ず出てくるという意味で「完全」であり、「間違い」はあります。ただ、どんな物理現象でも、「間違いがない」ということはあり得ません。例えば、現在のコンピュータも、確率こそ低いですけれど、そこそこ間違っているわけです。でも、エラーフリーが実現されているのは、エラー訂正を行っているからです。(実証した完全な量子テレポーテーションに)エラー訂正を入れれば、本当の意味で「完全」、エラーフリーになります。
EETJ 「入れたものが必ず出てくる」という意味では、完全なのですね。現状、忠実度はどれぐらいの割合ですか。
古澤氏 「入れたものが必ず出てくる」という意味では100%ですが、忠実度は、60%台でした。
EETJ 粒子性に着目したテレポーテーションの場合、これまでの効率はどの程度だったのですか。
古澤氏 フィデリティーは高かったのですが、効率は1%をはるかに下回るような、1000回やって1回できるよりも低い効率でした。
EETJ 完全な量子テレポーテーションを実証した意義とは、どのようなものですか。
古澤氏 通信でも、計算でも、最終的にはエラーフリーにしなければなりませんが、そのためには少なくとも、成功の確率が50%を超える必要があるわけです。基本的に、成功の確率が、失敗の確率よりも高ければ、冗長性を高めることでエラーフリーは実現できます。ですから、50%を超えたということが極めて重要で、それを達成したという意義は大変、大きいと思っています。
EETJ 完全な量子テレポーテーションの仕組みをもう少し教えてください。
古澤氏 繰り返しになりますが、粒子性のテレポーテーションと波動性のテレポーテーションの両方をうまく使ったということです。
基本的には、粒子性に着目したビットの情報を、フォトンが「ある」「ない」にコードして、送っているわけですが、送っている時は波動的なコーディングをしています。それは、AM変調とFM変調に分けるラジオと同じように送っているようなもので、波動のテレポーテーションを行っています。そして受信側で、復調するときに、それを粒子的にコードし直して、出力するものです。
EETJ テレポーテーションの実証された装置は、大きいように見受けられます。
古澤氏 将来的には、小さくしたいですね。実は、詳しくはお見せできませんが、実際には現在、光チップを開発していて、光チップでテレポーテーションを行おうとしています。
EETJ 近い将来、この装置はチップサイズになるということですか。
古澤氏 数年後には、できると思います。
ちなみに、テレポーテーションの動作は、1つの量子ゲートの動作でして、その量子ゲートをたくさん組み合わせて、大きな量子コンピュータができるわけです。この装置は1ゲートだけであり、これを集積化して大量のゲートを埋め込んで、量子コンピュータを作ろうというのがわれわれの計画です。
EETJ この装置やチップを並べることで、量子コンピュータが実現されるということですね。
古澤氏 はい。ただ、われわれは空間的に、このテレポーテーションのゲートを並べていこうとは考えていません。
では、どうやってやるかというと、ある10個なら10個のゲートを並べておいて、その(ゲート群からの)出力を、もう一度、その(ゲート群)の入力に回すような時間領域での多重、「time drain multiplexing」をやっていこうとしていて、その実験にも成功しました。
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