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量子コンピュータの可能性――量子テレポーテーションのパイオニア・古澤明氏に聞く【再録】 ITmedia Virtual EXPO 2014 秋(4/5 ページ)

» 2014年10月28日 10時00分 公開
[EE Times Japan]

世界記録「14個」から一気に「1万個」

EETJ それが2013年に発表された「超大規模量子もつれ」ですね。

古澤氏 そうです。今まで量子もつれを、大規模で作るということは非常に難しいとされてきました。先ほどお話したように、量子もつれを作る時、例えば10量子ビットを量子もつれさせたい時には、10個のイオンを持ってきて、それを並べるというような空間的に多重化していく流れでした。これまでは、14個の(量子もつれの)イオンを並べるというな量子もつれのサイズが世界記録でした。

 われわれは、この空間的な多重化は限界だろうな、という風に思っていまして、別の方法を考えていました。それが今回の成果です。

光を使った量子コンピュータの回路イメージ (クリックで拡大)

 時間領域での多重というのは、次から次へと量子系が出てくるのですが、それをうまい具合にもつれさせて行っていくものです。そして、2013年ですが、1万量子以上、正式に言えば、量子波束ですが、その量子波束がもつれる状況を作り出すことに成功しました。

超大規模量子もつれ生成のアニメーション 出典:東京大学

最先端開発には「最先端テクノロジー」が必要

EETJ イメージ動画を見ると、もつれたフォトンを1タイミング遅らせて、編むようにもつれさせているようですが、実際にはどのような装置で実現されたのですか。

古澤氏 フォトンを非常に短い時間で作って、ビットを1個シフトさせるということは簡単なのですが、今回の場合、最初の原理検証の実験なのでフォトンを作る時間が長いので、30mぐらいの長さの光ファイバーを使って、フォトンを遅らせています。そこで非常に重要となるのが、治具です。われわれは、フリースペースに光を走らせる形で実験を行っているわけですが、どうしても光を30mも引き回すのは難しく、どうしても光ファイバーを用いる必要があります。そこで、われわれは、フリースペースの光ビームを取り込むための専用の治具を開発しました。ほぼ100%、フリースペースで飛んできた光ビームを光ファイバーにカップルさせるような治具であり、量子をロスすることなく、遅延させることができました。

超大規模量子もつれの実験装置イメージ (クリックで拡大)

日本の環境を生かす

EETJ 治具開発も自ら行われるのですか。

古澤氏 結局のところ、世界最先端の研究をしようとしたら、世界最先端のテクノロジーが必要です。世界最先端のテクノロジーというのは、その辺に転がっているわけではなくて、自前で開発するしかないのです。日本という国は、いい環境でして、そういった最先端のテクノロジーの試作ができる国で、われわれは特注のフォトダイオードであったり、こうした光を取り込むマシンであったりを自前で開発できています。

EETJ 治具開発にはどの程度の時間を掛けていますか。

古澤氏 このマシンであれば、1年ぐらい掛かっていますかね。このマシンだけではなくて、われわれは、フリースペースの実験系を安定させて動かすために、ミラーマウントなどを開発してきました。ちなみに、ミラーマウントのセットアップをゼロから作るのに5〜6年掛かります。そして、日々の調整も数時間掛かかります。だいたい、1時間実験するのに、数時間の調整が必要です。

量子テレポーテーション装置のセットアップイメージ

EETJ 相当な根気が必要ですね。

古澤氏 根気強いだけでなく、手先が器用なことが極めて重要です。言ってみれば、田植えをやっているようなものです。手先が器用で、忍耐強いという日本人の特性をうまく生かした実験なんだと思っています。

EETJ 古澤さん自らミラーマウントの調整はされたりするのですか?

古澤氏 昔はもちろん自分でやっていましたが、最近は私よりも手先が器用で、根気強い学生たちがやってくれています。

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