当事者意識がなかなか湧きにくい環境問題ですが、人類がこれまで何もできなかったわけではありません。実際、オゾンホールの問題は国際協調によってそれなりの効果を出しています。ただし、総じて環境問題というのは、「原因がはっきりしなくても対策しなければならない」「なのに数十年たっても効果はないかもしれない」という、極めて“板挟み”的な要素を含んでいるのです。
地球温暖化問題について、大学院で地球科学についての研究を行っていた後輩研究員と話をしていた時のことです。
後輩:「江端さんの話を聞いていると、どうやら江端さんは、『地球や自然やらに対して有効な手段を取り得ない』と、一方的に決めつけていませんか?」
江端:「正直に言うと“Yes”かな。私の心のどこかで『ダメに決まっている』と思っている」
後輩は少し考えた風をした後で、私に言いました。
後輩:「江端さん。最近、オゾンホールの問題がどうなったかご存じですか」
江端:「あ、そういえば、その話題、聞かなくなったねえ。結局、あれも大した問題じゃなかったということだろう?」
後輩:「江端さん。人類は、史上初めて、国際協調によるフロンガスの規制に成功し、オゾン層は、今ようやく回復の兆しが見え始めているのですよ」
江端:「えっ! ウソ!」
思わず私は叫んでしまいました。
こんにちは、江端智一です。
「『環境問題』を数字で回してみよう」シリーズの第1回後半になります。前回は、地球温暖化問題に対して、「今一つ、本気になれない私」と「真面目に取り組んている(ように見える)各国政府」の間で生じている温度差について考察してみました。
後半では、「地球温暖化」という、全地球規模の問題に対して、人類が「本当になんとかなる」ものなのかを、過去の環境問題と対比しながら考えていきたいと思います。
さて、上記のオゾンホール問題の「改善」については、今年の9月に発表されたものですが、私はこのニュースを全く知りませんでした(これは、私の問題意識の低さを示すものでもあります)。
私は、国際協定なんぞは、利害のからむ国家間において、各国が「メリットがある」と判断した場合にだけ成立すると思っていました。ですから、「環境」などという漠然としたものに対して、国家が相互に協調ができるなどと一度も考えたことがなく、ましてや、それで「効果が出る」ということ自体、全く信じていなかったのです。
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