iPhoneは、そもそも東南アジアでのシェアはかなり低い。佐藤氏は「やはりiPhoneは高価な端末。スマートフォンの販売台数でiPhoneが上位にくるのは、実は米国と日本くらいしかない」と述べている。
スマートフォンの普及拡大とともにWi-Fiの導入率も高くなっている。前出の図版「東南アジアの携帯電話事情」からも分かるように、東南アジアでは3G/4Gの導入があまり進んでいない。4Gにいたっては導入していない国が半分だ。3Gの導入が最も進んでいるのはタイで、こちらは2Gの周波数帯を4Gに割り当てるべく、政府と通信事業者が2Gから3Gへの移行を積極的に進めているという背景がある。
東南アジアでは3Gネットワークが全域にわたって整備されているわけではないので、2GのSIMカードで十分というユーザーが多い。このため3GのSIMカードが売れない。するとますます3Gの普及が遅れる、という現象になっている。
一方でコンビニやカフェ、屋台、ホテル、交通機関では無料(または安価)でWi-Fiに接続できるサービスの導入が進んでいる。多くのユーザー、特に若者は、普段は2Gを使い、高速通信を行いたい時はそうした場所に行くという。
佐藤氏は、3G/4Gの普及について「Wi-Fiの普及スピードよりは遅く、時間がかかるだろう」と見ている。ただ、同氏によれば、Wi-Fiのバックボーンとして3G/4Gを使うケースも増えていて、これが3G/4G普及の鍵になりそうだ。佐藤氏は「光やADSLなどの固定回線を引くのはコストがかかる。Wi-Fiのバックボーンとして3G/4Gのインフラを整えるのは通信事業者にとってもメリットがある」と説明する。
ASEANでは、2015年に発足予定のAEC(ASEAN経済共同体)が注目されている。ASEAN各国が、モノ、ヒト、サービスの面でメリットを享受できると期待されているが、佐藤氏は「通信業界の動きは遅い」との見解を示している。「通信は、周波数の割り当てを各国で決めているなど、その国に主権が委ねられている。EU(欧州連合)を見ていても、統合されたからといって何か1つのことをやっていこうという動きは見えにくいだろう」(佐藤氏)。ただし、可能性としては、AEC発足によるメリットとしてローミングがしやすくなることが挙げられるという。「EUの時も統合のメリットはローミングだった。ドイツ人がフランスに(観光や仕事で)行った時に、ドイツにいる時とほぼ同じ料金で携帯電話機を使うことができる」(同氏)。
一方で端末に関しては、統合による動きはほとんどないと、佐藤氏は見ている。「例えばインドネシアのMito Mobileがマレーシアでも端末を売れるようになるかというと、そこまでのマーケティング力はない。Xiaomi(シャオミ)ですら売り上げの97%は中国。やはり地元メーカーが海外で端末を販売するというのは大変なことだ。携帯電話機はコモディティ化したとはいえ、精密機器だ。サポート体制がしっかりしていなければ対応しにくく、そのため海外では売りにくいという側面がある」(同氏)。
スマートフォンのコモディティ化は、東南アジアメーカーの間でも進んでいて、差別化はますます難しくなっている。各通信事業者はイメージキャラクターやキャンペーンなどで差異化を図るしかない。さらに、ネットワークのつながりやすさも、各通信事業者でほとんど変わらないという。というのも、日本のようにどこに行っても携帯電話がつながるという状況ではないからだ。佐藤氏は、「ネットワーク品質よりも、とにかく“安さ”が求められるのではないか」と見ている。
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