LTEなどの4G通信が注目を集めている。動画など大容量データの転送時間が短くなることが注目されているが、組み込みシステムを作る側からすれば、4G通信のメリットはそこにはない。
「4G(第4世代無線通信規格)のポイントは何だと思いますか」。東京大学大学院情報学環で教授を務める坂村健氏の問い掛けだ*1)。4GとはLTEやWiMAX、LTE-Advancedなどの通信規格を指す。これらは3Gに比べて通信速度が高いことが特長だ。
*1) 2012年5月31日にフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンが開催した「フリースケールの組込み市場向け戦略説明会」での発言。当日、フリースケールは日本の組み込み市場に向けた戦略として、「TRON」を主導するT-Engineフォーラムの幹事会員となったことを表明している。
だが、坂村氏によれば組み込みシステムにとって、4Gのメリットは通信速度ではないという。「遅延の減少こそがメリットだ。RTT(Round Trip Time)が従来の150msから5ms以下に短縮される他、アイドル状態から接続モードへ50ms以内に遷移できる」(坂村氏)。これは何を意味するのか。「3Gは高速だが反応が遅いネットワーク、4Gは高速で反応が速いネットワークだといえる。4Gが使えるようになれば組み込みシステムのアーキテクチャ自体が変わる。具体的には組み込みシステムをネットワーク端末とするリアルタイムのクラウドサービスが広がっていくだろう」(坂村氏)。
坂村氏の考える世界では、組み込みシステムが目や耳、手や足となって現実世界と接触していく。ここまでなら、3Gと同じ世界だ。ここに組み込みシステムが集めた膨大なデータを処理するクラウドがつながる点が異なる。「端末側でのデータ処理が不要になり、処理はバックエンドで、というシステム思想がとうとう現実のものになる」(坂村氏)。これまでもスーパーコンピュータを利用すれば、処理速度はカバーできたが、遅延の問題はどうしようもなかったという主張だ。
坂村氏の世界が現実のものになったとき、どのような応用が考えられるのか。例えば民生機器の世界でリアルタイムテレメトリが可能になるという。同氏によれば、リアルタイムテレメトリの応用分野は広い。「ヘルスモニターや交通モニター、環境モニター、エネルギーモニター、防犯、防災、高齢者などの支援、いろいろ考えられる。カーモニターといった応用もあるだろう」(坂村氏)。
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの代表取締役社長兼本社副社長のディビット M.ユーゼ(David M. Uze)氏は、坂村氏の世界を車で現実化しようとしている(図1)。
「まずは次世代インフォテインメントとして実現できる。これまでは車の情報だけを取り出して表示していたが、今後は車の情報とドライバーの情報を関連付けることができるようになる」(ユーゼ氏)。車の情報とはエンジンの回転数や加速度などだ。ドライバーの情報とはバイオメトリクス(心拍数や筋電図)を意味する(図2)。次世代インフォテインメントを使えば、事故の原因が車(の故障)にあったのか、それともドライバーなのか……ちょうど現在の旅客機に備え付けられているブラクボックスのようなアプリケーションが現実するという。
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