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人類は、“ダイエットに失敗する”ようにできている世界を「数字」で回してみよう(15) ダイエット(4/9 ページ)

» 2015年05月14日 12時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

ダイエット本のタイトルから見える、奇妙な傾向とは

 ところがですね、この「『ダイエット』本」の題目を調べてみると、奇妙なことが分かってきたのです。

 以下は、Amazonで「ダイエット」をキーワードとして検索した、約9000の本の中の、トップ200の書籍の題目を、カテゴリー分類した結果です。


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 上記の分類について、特に私が赤色で強調した箇所を中心に、考察してみたいと思います。

(1)「ダイエットの方法」に関して

(a)「行為」について

 「以前に出版された書籍と『異なる行為/モノ』が提示」される傾向が大きいです。あるいは、昔流行ったダイエット方法と同じ行為/モノを、別の言い方(単語、用語)で再度出版されていることが顕著に認められます。これは、読者に対して、「新規なダイエット方法」であることをアピールするための戦略と考えられます。

(b)「モノ」について

 「氷コンニャク」「しらたき」「せん切りキャベツ」 ―― 誰がどう読んだって、「ローカロリー食品である」という以上の情報はないと思います。

(2)「ダイエットの効果」について

(a)「数値」について

 実際に何冊か読んでみたのですが、提示された数字には根拠が示されていません。ある方式の効果を数値で提示で示す以上、

(i)その拠出根拠となった筋の通った仮説(モデルや式を含む)の提示
(ii)相当数の被験者データ(少なくとも100人くらい)の開示
(iii)一定期間の追跡調査の経緯

 が必要となりますが、このような記載は1つとして見つけられませんでした

 これはですね、定食屋のオヤジが、日替わりメニューにカロリー表示を付けるときに、「うん、今日の定食は、なんとなく740kcalだな」と決めつけて、表示しているのと同じです。れっきとした虚偽表示の違法行為(不正競走防止法2条1項)ですが、素材の虚偽表示と比べて、数字の虚偽表示に関しては、関心が低く、問題になっていないようです。

 そもそも数値の虚偽表示は立証が難しいです。実際のところ、カロリー計算などは、かなり面倒くさいのです(これも次回以降にご説明します)。

(b)「概念」について

 「人生最後のダイエット」「一生太らない」は言うに及ばず、「世界一の美女」に至っては、ここまで堂々と「ウソ」を語られると、逆にすがすがしいくらいです。「ウソ」というのは、ちょっと酷かもしれません。つまり、「そういうコンセプトで貫かれた『ダイエット』本だよ」という主張であるなら、それはそれでよいと思うのです。

 しかし、そのコンセプトを解説する記述がどこにもない。

 デタラメでもいいから、

「●●という理由があるから、人生最後のダイエットになる」
「▲▲という効果があるから、一生太らない」

 のひと言を記載するのは、最低限の読者へのマナーだと私は思うのですが。

(c)「箇所」について

 基本的には、ダイエットは「体重減」を目的とするものですから、わざわざ題目に「箇所」を記載しているのは、それがその本の「売り」になるためでしょう。

 「ダイエット」をすることは、全身の体重が減ることですので、女性のセックスアピールであるバストも巻き添えにして失われることになります(嫁さん談)。これは、当然の自然法則です。

 しかし、これら「箇所(足、腰、胸、尻)」に言及している題目の「『ダイエット』本」は、そのような自然法則に対する挑戦、因果律への反逆を試みる、野心的な本といってもよいでしょう。もちろん、それが本当に万人に実現可能な方法であるなら、ですが。

(3)「形容表現」について

 書籍の題目の形容表現は、以下の3つ「だけ」で構成されています。

(a)限定:「○○するだけでいいよ」「他には何もしなくていいよ」
(b)誇張:「こんなに素晴しいことが起きるよ」「これまでと違う非日常が手に入るよ」
(c)卑下:「こんなにダメな私でも」「今まで何度も失敗した私でも」

 高校の部活、または大学のサークルの新人勧誘でも、ここまで露骨なフレーズは使わないでしょう。

 どちらからというと、カルト宗教の勧誘に見られるフレーズです。カルト宗教は、こういう3つの文言に簡単にひっかかるような人を求めていますので ―― 彼らを、食いものにするために。

 上記の考察を踏まえて、『ダイエット』本の題目のカテゴリーの内容を、上位概念でまとめてみました。自分でも驚くほど、キレイに、かつ簡単にまとまりました。

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 総括すると、ダイエットの方法も、効果も、そして形容すらも、全て同じ記載となっていると言えます。

 つまり、「ダイエットしたければ、体を動かし、カロリーを控えろ」です。

 このようにして、同じような内容、ネタで、何度でも繰り返し出版される、「『ダイエット』本」は、かなり美味しいビジネスモデルのように見えます。

 なぜなら、このようなビジネスが成立するためには、ダイエットに興味のある読者に、「『ダイエット』本」を何度でも購入させる必要があり、そのためには「ダイエットに成功しない」ことが前提となるからです(このような「『ダイエット』本」の著者あるいは出版元に対して、次回以降、『訴えてみませんか?』というテーマで、展開したいと思っています)。

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