顧客に支持される製品を作るためには、製品の機能や性能だけに依存しない“本当の価値”を創出することが重要だ。これが「意味的価値」というものである。今回は「iPhone」を例に取り、iPhoneがいかに新たな価値を生み出したかを見てみよう。その上で、メーカーが追求すべく「意味的価値」について解説したい。
第3回で述べたように、「顧客への価値提供」と「競合との差別化(自社の独自性)」を維持することはたやすいことではない。特に、製品の機能や性能(スペック)による差別化に力を入れ過ぎると、「過剰スペック」となってしまう。過剰スペックが顧客価値を下げることもあるのは、VIZIOの4Kテレビからも明白だ。差別化ができても、顧客価値が低ければ、「価値創造ができても価値獲得ができない(第2回参照)」状態になり、企業としては収益に結びつかない。また、顧客価値が高くとも、競合に対しての差別化が十分でないと、「過当競争」を招き、大量に売れたとしても利益は大きくならない。
さて、前回の予告として、製品の機能、性能だけで決まらない価値として「意味的価値」という言葉を用いたが、その説明の前に、iPhoneと3Dテレビを見てみよう。
ガラケー(ガラパゴス携帯電話/フィーチャーフォン)も根強い人気があるものの、スマホ(スマートフォン)の普及率が伸びているのは誰もが知るところである。そのOS(Operating System)も、今ではAppleの「iOS」と「Android」の2強がほぼ支配的だ。OSが何かということを知らない人でも、「iOS」や「Android」の言葉は知っているだろう。
では、ガラケーの時代にさかのぼってみると、それほどユーザーがOSについて意識していたわけではない。携帯電話を使うに際して、OSなど気にしなくても良かったし、スマホではしばしば目にする「OSのアップデートでトラぶった……」などのニュースすらほとんどなかった。
携帯のOSも日本生まれのTRONプロジェクトによる「ITRON(Industrial TRON)」をはじめ、グローバルで見れば、ノキアの子会社となったシンビアン(英国)の「Symbian」、クアルコム(米国)の「REX(Real-Time Executive)」の他、「Linux」など複数存在していた。
このように、日本の携帯電話は、独自OSや多彩な機能が顧客価値に結びつかないままスマートフォンへとシフトした。メーカー各社は早い段階から自社開発のOSにはトライせず、Androidが主体となった。しかし、決定的な差別化に結び付いてはいない。
その一方で、Appleは、自前のOS(iOS)や優れたUI(User Interface)などを活用し、洗練されたデザインも相まって新たな顧客価値を創出していった。携帯型音楽プレーヤーの「iPod」のユーザーが慣れ親しんでいた「iTunes」上で、iPhoneと同期することができるなど、優れたプラットフォームを確立していたことも加速し、顧客をどんどん取り込んでいった。
これはまさしく顧客価値を提供しているのと同義で、企業独自の技術的優位性に、顧客価値を新たに付与することで、実現している。
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