技術革新によって新しい価値を生み出しても、それが“企業への適切な対価”に直結するわけではない。「価値の創造」と「価値の獲得」は、別物なのである。私たちは、そのことを、DVDプレーヤにおける日本メーカーの“敗北の歴史”から学ぶことができる。
前回(第1回)、電機メーカーがモノづくりでは世界中の消費者に大きく貢献し、力があったにもかかわらず、「いいものはできたが売れなかった(買ってもらえなかった)」ことが、アジア諸国勢企業に負けてしまった理由であると説明した。すなわち、イノベーションによって新しい価値を生み出すことができても、企業側は適正な対価を得られなかったのである。今回は「製品の価値」について考えてみたい。
筆者がエンジニアだった80年代後半から90年代、上司や先輩社員から設計開発の仕事に際して、さほど「付加価値を考えろ!」と言われた記憶はない。ひとつには開発する製品そのものがB to B市場が対象であったので、B to C市場向けの製品に比べて、厳しい競争環境に置かれていなかったからかもしれない。
したがって、新製品を開発するときには、既存製品にどのような機能を追加するのか、性能を今以上に上げるにはどうすればよいのか、ということに注力すればよかった。もちろん、コスト削減の要求は昔も今も変わらなかったが、差別化や付加価値に関していえば、「今よりいいものを作れば良い」という程度にすぎなかった。結果として、昨今いわれる「過剰品質」「オーバースペック」「複雑な機能追加」など、顧客視点ではなく、エンジニアの自己満足的に、それが付加価値であると信じて、当たり前のようにやっていたかもしれないのは、今更ながら反省点でもある。
では、機能・性能以外に製品の付加価値を高めるにはどうすればいいのだろうか。デザインで勝負する? 操作性? UI(User Interface)? それとも、頑丈さ(堅牢性)か、持ち運びのしやすさ(可搬性)か、省エネか……などなど、結局は機能につながる話をしているだけだったり、競合企業でも容易に実現できるようなことで得意になっていたりするケースも少なくない。
一橋大学のイノベーション研究センター教授を務める延岡健太郎氏は、その著書、『価値づくり経営の論理(日本経済新聞出版社)』において、こう述べている。
価値づくりとは、『社会的に価値のあるモノづくり=社会的な存在意義』を言う。分かりやすく言えば、「その企業にしかできない、顧客に大きな価値がある、素晴らしいものづくり」ということを述べている。これを図にしたものが、以下の図1である。
「価値づくり」は以下の3つの要素で示される。
(1)企業内部における「自社のモノづくり」
(2)企業外部に対する「顧客への価値提供(顧客価値)」
(3)企業外部に対する「競合企業との独自性(差別化)」
さらに以下のように続く。
「社会的に価値のあるモノづくり」「その企業にしかできない、顧客に大きな価値がある、素晴らしいモノづくり」と、分かったような分からないような漠然とした言葉が並び、さらに、「横並びの脱却」「真の顧客価値の創造」……と続く。よくよく考えなくとも、ごく当たり前のことを言っていることに気付くだろう。
ところが、この当たり前のことができていないことが問題であり、かつ、たやすく解決できるものではないから、どの企業も頭を抱えているわけだ。読む側としては、「それが具体的にわかれば苦労しないのに……」と思うに違いない。筆者も最初はそうであった。だが、実はここに日本人ならではのモノづくりの特徴や開発・設計への考え方、思想、仕事のやり方等が深く関わっていることが徐々に分かってきたのである。
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