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あなたの知らない「音」の世界、体に起こる不思議な反応新技術(4/5 ページ)

» 2015年06月05日 09時15分 公開
[畑陽一郎EE Times Japan]

ほとんど聞こえない音でも効果あり

 今回の研究で初めて分かったことはこうだ。音を次第に小さくしていき、可聴限度に近い10dBまで下げたときにも効果がある(図6の右)。なお、音を鳴らすタイミングのずれを数msという被験者に分からないほど小さくしても、ボタンを押すタイミングがずれる。

図6 音のずれの影響(左)と音の強さとの関係(右)

 研究結果は聞こえないふりを見破る以外にも応用できるという。難聴には大きく2つの原因がある。耳自体に原因があるものと、音の情報を処理する脳に原因があるものだ。この2つを簡単な検査で切り分けることができるとした。

耳が発する音を聴く

 「騒音性難聴リスクの個人差を耳の特性から予測」(耳から出る音で測る)という研究は、「ヘッドフォン難聴」や「ライブ難聴」と呼ばれる事故の予防に役立つ。

 一般に、大きな音を聞くと、その直後に音の聞こえが悪くなる。音があまりにも大きいと聴力は永久に回復しない。このため、ライブ(コンサート)でスピーカーに近い席に座るときは耳栓をした方がよい。「欧州の楽団では、バイオリニストなどプロの音楽家が練習する際、耳栓をして、耳を保護する動きが広がっている」(古川氏)。

 京都市立芸術大学との共同研究により、1時間程度のバイオリンの練習でも、一時的な聴力低下が生じることをまず確認した。図7では4kHzを中心に可聴閾値が5dB以上も下がっている。

図7 大きな音を聴くと聴覚に一時的な障害が起きる

 大きな音に備えようとしたとき、1つ困ることがある。人によって、大きな音に耐える能力が異なるのだ。自分が大きな音によって難聴になりやすいのか、なりにくいのか、あらかじめ調べる方法がないだろうか。これが3番目の研究テーマだ。

細胞の信号増幅機能を利用

 今回の研究で利用したのは、耳が自ら音を発する「耳音響放射(OAE:Otoacoustic Emissions)」(図8)。耳反響放射を理解するには、耳が音に反応する仕組みを追うとよい。

図8 耳音響反射と測定装置の関係

 耳に入った音はまず鼓膜を振るわせ、耳小骨を伝ってカタツムリ状の器官「蝸牛」に入る。蝸牛内部には基底板という構造があり、これが音に応じて振動する。基底板には2種類の有毛細胞が位置しており、この有毛細胞が聴神経とつながり、液体の振動を電気信号に変えている。

 2種類の有毛細胞のうち、外有毛細胞と呼ばれる細胞が耳反響放射を作り出す。外有毛細胞は振動を電気信号に変えるだけでなく、音の振動に応じて細胞自体の形を高速に変形・振動する能力がある。この能力は小さな音を聞こえやすくする増幅機能として働いていると考えられている。1970年代、英国の研究者が耳音響放射を発見、現在では標準的な医療検査にも利用されている*2)

*2) 現在では新生児の聴覚検査に、耳音響放射を利用している。被験者の応答がなくても耳の機能の異常を発見できるからだ。

 今回の研究では、バイオリン奏者に協力を呼びかけ、強い音を聞いてもらった。すると、強い音に応じて、耳の増幅作用が抑えられていた(図9)。耳による自動保護機能である。

図9 強い音を受けたときには増幅作用が低下する 出典:NTTコミュニケーション科学基礎研究所

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