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太陽電池、これまで10年これから10年(前編)『EE Times Japan 10周年』特別編集(5/6 ページ)

» 2015年07月01日 10時00分 公開
[畑陽一郎EE Times Japan]

変換効率の予測にずれあり

 発電コストの引き下げという最終目標から判断する限り、PV2030の予測は的中しつつあるといえるだろう。だが、目的を実現する技術の予測に「ずれ」があった。

 第1に変換効率の目標が楽観的だった。特に生産規模が大きな多結晶シリコン太陽電池と、図5の表現から分かるように当時期待がかかっていた薄膜シリコン太陽電池である。第2にPV2030ではあまり考慮していなかった高性能な太陽電池が出現したことだ。

 第1のずれはこうだ。一般に太陽電池の開発では数cm角の研究段階のセルで高効率化手法を開発し、それを大型の量産セルに適用していく。さらにモジュール技術に当てはめていく。

 だが、シリコン太陽電池では研究段階のセルの変換効率がそもそも約10年間、頭打ちになっている。2005年以降の変換効率改善は、いかに研究段階のセルに近づくかという競争に「すぎない」。

 これは米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の公開資料からも明らかだ。図10では研究開発段階の各種の太陽電池セルのうち、最も変換効率が高いものを示している(2015年6月9日時点)。全て研究段階のセルだ。

graph 図10 太陽電池セルの変換効率の記録の推移 出典:NREL(1995年以降の記録のみを取り上げた)

 この図では技術をまず4つに分類している。紫色は多接合太陽電池とGaAs(ガリウムヒ素)。集光型太陽電池や宇宙利用に向く技術だ。既に製品化が進んでいるものの、高価であり、国内で大量に導入される可能性は少ないだろう。

 本誌が2010年10月に掲載した「太陽電池の未来、変換効率はどこまで高まるか」(リンク)では、多接合太陽電池などの先端技術についても触れている。いずれも結晶シリコンでは実現不可能な30%を超える変換効率で活躍する技術だ*10)

 オレンジ色は先端技術。フレキシブル化、軽量化、室内光利用、複合電池などシリコン太陽電池とは異なる使い方がありそうだ(図11)。

図11 東京大学瀬川研究室とソニーが開発した蓄電機能を備える色素増感太陽電池。アジサイの花の部分に蓄電する

 先端技術のうち、ペロブスカイト太陽電池については、「低温・溶液プロセスで高効率、高信頼性の新型太陽電池の作製に成功」(リンク)で扱った。図10ではオレンジ色の丸の中を黄色で塗りつぶしたグラフで示されている。効率を順調に改善し続けており、既に多結晶シリコンの変換効率(20.8%)に肉薄(20.1%)している。PV2030では予測できなかった技術だ。

 図10のあい色は結晶シリコンを、緑色は薄膜を示している。この2種類は量産が進んでおり、今後も導入比率が高いだろう。あい色の線のうち、塗りつぶされた正方形(■)が単結晶シリコン、内側が白い正方形(□)が多結晶シリコンだ。どちらも変換効率の伸びが著しく低いことが分かる。

*10) 1種類(1層)の半導体だけを使った場合、太陽光のスペクトルの性質から、理想的な条件での変換効率に上限があることが分かっている。ある半導体材料を選ぶと、X nmよりも長い波長の光(赤外線側の光)を吸収できなくなる。X nmよりも短い波長の光は吸収できるものの、その光のエネルギーの一部しか利用できない。半導体の種類を変えると、Xの値も変わる。しかし、どのような半導体を用いても32.7%よりも効率を高めることはできない。これをショックレー・クワイサー(Shockley-Queisser)限界と呼ぶ。

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