東京工業大学(東工大) 総合理工学研究科の山本康介修士課程修了らによるスピンフォトニクス研究グループは、コバルト(Co)とパラジウム(Pd)の極めて薄い膜を交互に積層した磁性薄膜が、弱い光で磁性が変化する「光磁石」候補であることを発見した。
東京工業大学(東工大) 総合理工学研究科の山本康介修士課程修了、北本仁孝教授、像情報工学研究所の宗片比呂夫教授らのスピンフォトニクス研究グループは2015年8月、コバルト(Co)とパラジウム(Pd)の極めて薄い膜を交互に積層した磁性薄膜が、弱い光で磁性が変化する「光磁石」候補であることを発見したと発表した。さらに、同じ研究グループでは、類似の磁性薄膜と光ファイバーを一体化した光導波路を用いて、光磁石材料と偏光変調を組み合わせた光信号多重伝送の可能性を見出した。
宗片教授らのスピンフォトニクス研究グループは、スピン安定状態が異なる2種類の物質の接合界面に着目した。今回の実験ではCoとPdの界面で発生する電荷のわずかな偏りに基づくスピンに着目し、基本波長が790nmの弱いパルス光を用いて、磁化の才差運動(コマの首振り運動)の実験を行った。
今回の実験では、パルス光強度が1μJ/cm2以下の弱い超短レーザーパルス光を試料に照射して、一気に光−電荷−スピン間の相互作用を変調することで、スピン集団全体の向き(磁化)を変化させることが可能なことが分かったという。
さらに、同研究グループで東工大 像情報工学研究所の西林一彦特任講師は、電気通信大学の米田仁紀教授、NHK放送技術研究所の久我淳氏らと、光ファイバーなどの導波路内における、光−スピン間の相互作用について共同研究を行った。この共同研究では、類似した磁性薄膜と光ファイバを一体化した光導波路を用いて、導波路を伝搬するモード光の選択的な偏光変調に成功した。これによって、光磁石材料と偏光変調を組み合わせた光信号多重伝送の可能性を示した。
同研究グループは今回の成果について、光の多重伝送をはじめ、スピンと光だけで構成する光メモリや遅延再生、などの研究に発展する可能性が高いとみている。さらに具体的なデバイス試作もこれから始まる見通しだ。
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