同氏はそれを実証するために、筆者にヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着させると、レイテンシを1ミリ秒に設定した。同氏が軽くサッカーボールを投げると、筆者はそれを簡単に受け取ることができた。このやりとりを数回繰り返した後、同氏はレイテンシの設定を10ミリ秒に設定し直した。すると、筆者は全くボールを受け取れなくなる。レイテンシの設定を2ミリ秒に変更し、同氏に真正面に立ってもらい、両手の間にボールを落としてもらっても、空気しかつかむことができなかったのだ。
Fitzek氏は、「この他にも、自律型ロボットや自動運転車、自動工場の機械など、さまざまなデモを披露することは可能だが、結果はどれも同じだ。4Gと5Gの違いは、IoT/コネクテッドデバイスの信頼性と安全性、セキュリティを確実に実現する上で、1ミリ秒のレイテンシが不可欠かどうかという点だ」と述べる。
同氏は、「全ての信号はほぼ同じ速度で伝達され、相互の関係性も非常に高いことから、効率的な相互通信を実現するには、レイテンシは1ミリ秒でなければならない。例えば、最初の自動車が、後ろの車に対して、ブレーキをかけることを知らせるための信号をレイテンシ1ミリ秒で送信する。すると、信号を受けた車がまたその後ろの車に同様に伝送する。ここで必要なのは、1ミリ秒のレイテンシを確実に実現することだ」と述べる。
同氏は、「5G規格に対応するには、信号の伝送距離に関係なく1ミリ秒のレイテンシを実現しなければならない。さらに、世界で最も優秀なハッカーでさえも解読できないような暗号化も不可欠だ」と主張する。同氏によれば、このような暗号化を、1ミリ秒のレイテンシを妨害することなく実現するのは非常に難しい。しかし、同氏の教え子である数多くの大学院生たちが、ここ10年以上にわたって同氏の構想の実現に向けて取り組んできたことにより、その問題の解決が可能になったという。
これらの生徒たちは10年ほどの間に、スピンオフ企業を5社設立していて、今や、間近に迫った5G革命のあらゆる側面への対応も可能だという。その構想は、数学的に複雑な点も含まれるが、すぐにでも実行可能であり、エネルギー効率や信頼性、安全性も極めて高い。しかし同氏は、まだ全てを明かすことはできないという。同氏はそのほんの一例として、筆者に前述のデモを見せてくれたのだ。
各基地局において、ネットワークスライシングと認知コンピューティングとを組み合わせたり、ローカルストレージやローカルネットワークを構築することの他、対象とする受信者によってのみ復号が可能な、乱数を用いた暗号化コーディング/リコーディングを、信号伝送中に実施することなどが必要だ。これを実現するためのツールとして、SDN(Software-Defined Network)や、ソフトウェア定義型ストレージ(Software-Defined Storage)、ソフトウェア無線(Software Defined Radio)などを用いることにより、柔軟性を高め、パケットを再度組み立て、複数の符号化データがあちこちに存在していても復号することができるようにする。そして最も重要なのが、これら全てをレイテンシ1ミリ秒で実行することだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.