2015年の半導体業界では、過去に類を見ないほどM&Aが相次いだ。買収金額も上昇している。業界のアナリストは、これについて、買収対象となる企業が減っているからだと話す。
半導体業界ではここ1年以上にわたり、合併買収の激しい波が押し寄せている。現在では、買収ターゲットとなる企業の数が減り、買収側が先を争って狙いを定めようとしていることから、その波は最高潮に達したといえる。
そのいい例として挙げられるのが、Microsemiが2015年11月24日(米国時間)、ミックスドシグナル/ストレージ向け半導体チップメーカーであるPMC-Sierraを、25億米ドルの現金および株式で買収すると発表したことだ。このわずか2カ月ほど前には、Skyworks Solutionsが、PMC-Sierraに20億米ドルでの買収を提示していたばかりである。Microsemiが今回示した買収金額は、それに25%も上乗せしたことになる。また、Skyworks SolutionsがPMC-Sierraの買収を発表した数日前となる、2015年9月30日時点でのPMC-Sierra株式の終値に対しては、77%も上乗せした形だ。
合併買収はもともと、“半導体業界のDNA”の一部に組み込まれているといえる。しかし、いくら合併買収好きの業界でも、2015年は異例ともいえる年だった。米国の市場調査会社であるIC Insightsによると、半導体業界において2015年に発表された合併買収の合計金額は、1020億米ドルを少し上回るまでに増加したという。これは、半導体業界の過去5年間の年平均買収金額の8倍を超える。
半導体業界では現在、米国ウォール街を十分に満足させられないほど成長が鈍化している。このため半導体メーカーは、売上高の増加と事業規模の拡大を実現するための手段として、企業買収に多大な資金を投じる他に選択の余地がないのだ。
IC Insightsでマーケットリサーチ担当シニアアナリストを務めるRob Lineback氏は、「半導体メーカーは、半導体市場の成長を上回るペースで売上高を増加させなくてはならないというプレッシャーにさらされている。これが、買収を加速されている」と述べている。
米国の投資銀行であるStifel Financialで半導体プラクティス担当マネージングディレクタを務めるKevin Cassidy氏は、「半導体市場の年間成長率は約5〜7%であり、エンジニア人件費の年間あたりの増分を相殺するには不十分だ。このため、5〜7%という成長率を上回らなくては、何の影響力も持つことができないだけでなく、投資家向けに収益増加をもたらすことも不可能だ」と述べる。
Stifel Financialは、MicrosemiによるPMC-Sierraの買収取引において、Microsemiの財務顧問を務めている。このためCassidy氏は、今回の買収についてコメントをすることができない。同氏をはじめとするアナリストたちは、「活発な合併買収が行われ、買収合戦が展開される中、今のところ、買収される側の企業の評価額が混迷するような事態はまだ生じていない。しかし今後、企業統合の波が続けば、買収金額はさらに膨れ上がっていくだろう」と予測している。
買収金額が上昇する理由の1つは、単に買収対象が少ないからだ。買収の対象となる半導体メーカーがそこまでないのである。今後、さらなる買収/統合が続けば、対象はもっと減る。要は“売り手市場”なのだ。
IC InsightsのLineback氏は、「買収の対象となるような企業は限られている。当然、買収されることに何の興味も示さない企業もある」と説明する。
同氏は「数年前までは、半導体メーカーは、製品ラインアップの無駄を省き、より(特定分野に)焦点を絞っていく傾向があった」と述べる。各社とも製品ラインアップをスリム化して、大手のプレイヤーが存在しない市場からは手を引いた。そして、シェアを拡大できそうな市場にリソースを集中させたのである。
だが現在は違う。買収によって、製品ラインアップを増やし、注力する分野や市場を拡大していく傾向にある。Cassidy氏は、「これはある意味、業界の進化だと捉えている」と語った。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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