NECと長岡技術科学大学は、人間の耳穴の形状によって決まる音の反響を用いた生体認証技術を開発したと発表した。2018年度中の実用化を目指す。今後、スマートフォンの個人認証は、指紋やパスワードだけでなく「耳の形状」でも行われるようになるかもしれない。
NECと長岡技術科学大学は2016年3月7日、人間の耳穴の形状によって決まる音の反響を用いた生体認証技術を開発したと発表した。マイク一体型のイヤフォン(市販品でも可能)を耳に装着し、耳の穴で反響したイヤフォンの音をマイクから収集することで、耳の形状によって決まる音響特性を約1秒で測定できるという。
同技術はまず、イヤフォンのスピーカーから数100ミリ秒の音響信号を出力し、耳の中を伝搬した音響信号をマイクで受信する。次に、複数回の受信信号の波形を加算して平均を取る同期加算法を用いて、受信信号に含まれるノイズの影響を削除する。その後、耳の中で音がどのように響くか(音響特性)を算出している。
音響特性から個人の判別に有効な特徴量を抽出するのには、NECの生体認証技術がベースとなっているという。音響信号は外耳道から鼓膜を通過して、中耳、内耳へと進む。NECは今回、「外耳道を通って鼓膜で反射して返ってくる信号成分と、鼓膜を通過した後、中耳と内耳で反射し、返ってくる信号成分が重要なのが実験から分かった」と語る。
同技術は、この2種類の信号成分に対応する特徴量を抽出する。同特徴量により、少ない計算量で生体認証が可能になり、外的環境の影響も排除できるため、99%以上の認証精度を実現したとしている。
NECは、同技術を重要インフラ施設の警備業務におけるなりすまし防止や、特定の人/場面での音声ガイドサービスなどへの応用することを検討し、2018年度中の実用化を目指す。EE Times Japanの取材に対して、「同技術は、認証用機器に体の一部をかざすといった動作が不要なため、移動中や作業中でも、マイク一体型のイヤフォンを装着するだけで常時認証が可能になる。将来的には、指紋やパスワードで行っているスマホの生体認証に、耳の形状が加わる可能性も考えられるだろう」(NEC)とした。
なお、今回の成果は、3月9〜11日に開催される「日本音響学会2016年春季研究発表会」(桐蔭横浜大学/横浜市青葉区)において、10日に発表される予定である。
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