「ワイヤ表面のスピンのみを回転させる」という新しい原理を用いたGSRセンサーの感度は、極めて高い。スマートフォンなどの電子コンパスに採用されているホールセンサーのノイズレベルは10mG(ミリガウス)だが、GSRセンサーは0.2mGだ。約50倍の感度を実現している。
これほどの感度になると、地磁気はもちろん、生体磁気も極めて高精度に検知できる。高感度なので同等レベルの性能のセンサーに比べて小型化も可能だ。本蔵氏らは、ワイヤに巻くコイルを小型化し、GSR素子を実装する回路の設計を最適化したことで、小型化を実現した。同氏によると、外形寸法が1.2×1.2×0.6mmのGSRセンサーを2016年9月までに実現できるメドが立ったという。
GSRセンサーのサンプル出荷は既に開始している。サンプル価格は要問い合わせ。2017年の量産開始を目指す。
小型で超高感度という特長を生かしてGSRセンサーが主に狙うのは、スマートフォンの他、ウェアラブル機器と自動車、医療の分野である。
スマートフォンなどに搭載されている磁気センサーは、それほど高性能である必要はない。「高性能なソフトウェアとスマートフォンの処理能力で、いくらでも補正が効くからだ」(本蔵氏)。そのため、スマートフォンメーカーは、性能よりもコストを重視して磁気センサーを選んできた。
だが、ここ数年で普及しているウェアラブル機器では、高い性能が要求される。特にフィットネスやヘルスケア向けのウェアラブル機器では、ユーザーが走ったり激しい運動をしたりしても、微弱な生体磁気を正確に計測できる高感度なセンサーが必要になるからだ。本蔵氏は、こうした要件がGSRセンサーの普及を後押しすると見込んでいる。自動車では、各メーカーが研究開発を進めている自動運転技術に生かすことができると、本蔵氏は述べる。
さらに期待できるのが医療分野だ。本蔵氏は、「GSRセンサーは外形寸法が1.2mm角なので、医療用カテーテル(内径1.3mm)の中に搭載できる。これによってカテーテルの場所を正確に検知できるようになる」と述べる。もう1つ、超伝導を利用した磁気センサーであるSQUID(Superconducting QUantum Interference Device)の置き換えも狙う。SQUIDは、フェムトテスラオーダーを検出できるほどの感度を持ち、脳や心臓に流れる電流で発生する極めて微弱な磁場を計測する装置(脳磁図計/心磁図計)に使われている。だが、高価で、極低温に保つ装置や、環境磁気雑音を遮断するための磁気シールドルームといった大型の周辺機器が必要になる。本蔵氏は、SQUIDをGSRセンサーで置き換えることで、ハンドヘルド型の脳磁図計/心磁図計を安価に実現できると見込んでいる。
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