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磁気センサーの“異端児”がウェアラブルを変えるスピン制御で超高感度を実現(3/5 ページ)

» 2016年04月05日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

「MIセンサー」が基礎に

 GSRセンサーのベースになったのは、本蔵氏が愛知製鋼時代から開発と販売に携わっていた「MIセンサー」である。

 MIセンサーは、名前の通り磁気インピーダンス効果を利用するものだ。磁気インピーダンス効果とは、アモルファスワイヤなどのアモルファス磁性体のインピーダンスが、外部磁界の変化に伴って変化する現象を指す。アモルファスワイヤに20MHzほどの高周波電流を供給し、インピーダンスの変化から磁気を換算する仕組みだ。

 本蔵氏が愛知製鋼で手掛けていたのは、このMIセンサーを改良した、より高感度な「MIセンサー*)」だ。外部磁場がかかっているアモルファスワイヤに100MHzのパルス電流を通電し、ワイヤ内の磁壁を振動させて動かすことで磁化を回転させ、それによって生じた誘導電圧をコイルでピックアップして、磁気に換算する仕組みになっている。

*)愛知製鋼が開発したMIセンサーは、一般的なMIセンサーとは、検出の仕組みがやや異なるため、本記事では「愛知製鋼の『MIセンサー』」とする。

 愛知製鋼の「MIセンサー」は、2mGのノイズレベルを実現した。ホールセンサーの10mGに比べると十分に高感度で、Googleの「Nexus 7」をはじめ、LG ElectronicsやHTCのハイエンドスマートフォンの電子コンパス向けに、大量に採用された時期もあった。だが、ホールセンサーなどの半導体センサーに比べてコストが高い点がデメリットとなり、安価なホールセンサーと高性能なソフトウェアで構成される電子コンパスには勝てなかった。

 だが前述したように、ウェアラブル機器の台頭による磁気センサーの要件の変化が、転機となった。愛知製鋼の「MIセンサー」は性能面では十分だが、やはりコストの問題はついて回る。そこで、「何とかして小型化し、一度に製造できる量を増やして低コスト化に結び付ける打開策を探っていた」(本蔵氏)。

1GHzのパルス電流で感度を上げる

 小型化するには、感度を上げる、つまりセンサーの出力を上げる(=コイルの電圧を上げる)ことが必要になる。出力はパルス電流の周波数に比例する*)ので、単純に考えれば、周波数を上げれば感度は上がることになる。だが、むやみに周波数を上げればよいというわけではない。磁壁を動かすためには、ある程度のエネルギーが必要になる。ギガヘルツのパルス電流では、電流が流れる時間が短すぎてエネルギーが足りず、磁壁を振動させることができないのだ。そのため、愛知製鋼の「MIセンサー」では20MHzが限界だった。

*)正確には、周波数の平方根(√f)に比例する。

 だが本蔵氏は、「1GHzのパルス電流を通電すれば、ワイヤの表面にしか電流が流れなくなり、表面に存在するスピンのみが回転するのではないか」という仮説を立てた。その後、丹念に磁界シミュレーションを繰り返し、仮説を立証したのである。

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