Q:スレーブ(メイド)なんぞを売ったって、もうかりませんよね。
江端 EtherCATのスレーブ(メイド)って、びっくりするくらい安いですよね。私は、自分の人生の中で、サラリーマンエンジニア風情が、製造ラインの装置を個人購入できる時代がくるとは思ってもいませんでしたよ。
川野さん 確かにI/O 1点あたりの単価にすると、軽く1000円以下になっていますね。
江端 秋月(=秋月電子通商)で、組み立てキット購入するのがバカみたいですよ。で、ぶっちゃけ、お伺いしますが、スレーブなんか売っていて、もうかりますか?
川野さん 確かに単純なI/Oスレーブのもうけだけでは食べていけないかもしれません。ただ、一口にスレーブと言っても、高精度なアナログ信号を扱うものやモーション関係のスレーブなど、ベッコフではEtherCAT対応機器を世界で一番たくさん発売していますし,コントローラ製品も競争力があると思います。そもそもEtherCATは市場を作るための手段であって、単なる金もうけの手段としては考えていません。
江端 その辺も、よく分からないのです。ベッコフのお客さんって、一体、誰なんですか?
川野さん エンジニアです。
江端 え? それって、ベッコフのお客が『私(江端)』ってことになりますよ?
川野さん そうなんです。だからベッコフは無駄な広告を打つくらいなら、その金、全部、エンジニアが必要としている機能や性能を高めるための技術開発に突っ込みます。
『私だったら、秋葉原からメイドさん連れてきて、EtherCATスレーブのCM作るかもしれないなぁ……』と思いましたが、もちろん黙っていました。
川野さん キーワードは、『エンジニアチョイス』です。テクノロジーそれ自体が、マーケティングなのですよ。ベッコフのエンドユーザーはエンジニアなのです。エンジニアのハートにヒットするものは必ず商業的にもヒットするという絶対的な確信が私たちにはあります。
江端 それって……それ、死ぬほどうらやましいです。私の会社で、「エンジニアチョイス」なんていったら、幹部から首を締められます。
その時、私の頭の中で展開されたイメージは、「おい、見てみろよ、こんなもの作ったんだぜ。スゲーだろう!!」「チクショウ、やるなぁこの野郎、見てろよ、俺はもっとすごいもの作ってやっからよ」と語り合う、オフ会会場の技術オタクたちでした。
川野さん そもそもベッコフ本社の社長、ハンス・ベッコフ自体が「ギーク」(geek)*4)ですからね。私達は「技術万歳」のDNAを社是とする会社なんですよ。
本社の社長を「ギーク」と言い切った!
*4)英和辞典を引いてみてください……。
川野さん ハンスが拘った最新技術の1つが、EtherCAT Pです。この規格も次のETGの技術総会でオープン化される予定ですよ*5)。
*5)川野さんより補足:「つい先日ETGでオープン規格となることが決まりました」
EtherCAT Pは、「EtherCATの配線にモーターやロボットを動かす電力線も一緒に付けて電気を送ってしまえ」、という非常に分かりやすい規格です(関連記事:EtherCATの新規格が登場、電力と通信を1本のケーブルで[MONOist])。
私は、この規格の素晴しさを心底から理解できる1人です。
EtherCATでホームセキュリティシステムを作る時に、自宅のコンセントを20個くらい占拠されて、タコ足配線で、家の中をグチャグチャにしている当事者ですから(それも家族から不評を受けている1つです)。
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