Q:「ETGの年会費は無料だが、構築のノウハウもないし、なんのサポートもしてくれないぞ」って言われましたよ。
小幡さん ETGは標準化/普及促進団体なので、SIer業務を行ったり、直接的な開発サポート業務を行ったりすることが本業ではありません。
そりゃそうだ。「IETF*8)がルーターの修理に来ない」と文句を言うくらい変な話だ、と、私もその時に気が付きました。
*8)参考URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/Internet_Engineering_Task_Force
江端 あ、そういえば、確か「ユーザーがほしいのはシステムでありEtherCATスレーブではない」とも、ディスられていましたよ。
小幡さん いや、それはディスられているのではなく、全くその通りです。スレーブだけがユーザーニーズではありませんし、スレーブは、ユーザーが作りたいと思うシステムを作るための単なる「手段」にすぎないと思います。
Q:「EtherCATは、まだまだ先だ」って言われましたよ。
川野さん 実際、EtherCATの認知に時間がかかっているのは事実ですね。ただ、2003年から10年間は、EtherCATの認知度を高める期間だったと見るのが良いのではないでしょうか。日本での浸透が進むのはまさにこれからだと思います。
江端 種まきの期間が長いですね。私たち研究員は1年、下手すると半年で成果を出さないと、研究テーマをつぶされかねません。正直、ちょっとうらやましい気がします。
小幡さん この分野でライフサイクルが長いのは認めなければならないでしょう。制御システムはいったん動き出すと、リプレースまでの時間が長いので、それを待ち続ける「我慢」も必要なのです。
江端 川野さんが『これからEtherCATが流行(はや)っていく』と考える根拠は、何ですか?
川野さん 2つあると思っています。
1つ目は、「リプレース需要」です。EtherCATなど導入せず、これまでと同じ機器をずっと運用しつづけたいという根源的なニーズもありますが、高性能でシンプルな選択肢が合理的な価格で入手できるとなると、乗り換えの検討対象となります。つまり、リプレース需要はいつだってあるということです。
江端 確かに、PCと、イーサネットと、C言語だけで、リプレースできるとなれば、当然、そのフットワークも軽くなりますよね。大体、私が趣味で手を出せるくらいまで「軽く」なっているんですから。
川野さん 2つ目は、「新分野」です。Industrie 4.0などでも提唱されていますが、これからは、工場と工場の間だけでなく、製造拠点、輸送、消費者の間のSCM(サプライチェーン・マネジメント)は、ネットワークによって、さらにバリューチェーンの融合が加速します。とすれば、そのような「新分野」が次々と作られていくわけですから、既存システムの見直しやリプレースの機会も必然的に増えることになります。
江端 こっちの方は、正直、私にはよく分からないです。
もっと勉強しなければならないなぁ、と思っています。
今のところ、私の頭で、EtherCATのシステムの全体を把握できるものは、私が作った、私の家の中だけの、私のホームセキュリティシステムだけ―― ということかと。
それでいて、世界各地からEtherCAT関連のニュース*9)が普通に飛び込んでくるようになって――、なんて言うんでしょうかねえ、「私だけの『超高速』メイド」が、「世界のみんなの『超高速』メイド」になっていってることに、一抹の寂しさを覚えないわけではないです。
*9)例えば、MONOistの「トヨタが工場内ネットワークでEtherCATを全面採用、サプライヤーにも対応要請」などです。
では、最終章前編は、ここまでにしたいと思います。
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