では、最初に2016年1月にベッコフとETG日本オフィスを訪問して、社長の川野俊充さんと、ETG日本オフィス representative/technologist 小幡正規さんにインタビューさせていただいた時の内容から始めたいと思います。
Q:なんで私(江端)をETGに入れてくれないのですか?
ETGとはEtherCAT Technology Groupのことです。
会費無料ということもあって、最近会員数は増加を続け、本日(4月26日現在)で3695社が参加しています*3)。
*3)「毎日増えているから、このページ(https://www.ethercat.org/default.htm)から最新の数を入れてくださいね」と、川野さんと小幡さんから強く要請(圧力)を受けています。
ETGに加入しないと、EtherCATのマスタ(ご主人様)やスレーブ(メイド)を作ることはできません(購入やEtherCATでシステムを作るのは当然問題なし)。私にとって、大問題だったのが「EtherCATの膨大な仕様書が入手できない(読めない)」ということだったのです。
ETGは、法人しか入会を認めていないからです。
この後の私の行動は「卑劣」の一言につきます。
私は、ドイツ法においては「法人格を必要としない会社」が認められることを確認した後、私は週末の一日で「kobore Networks」言う名前の英語のWebサイトを作り、このWebサイトの名前とURLを付けてETG加入申請を提出しました。
で、却下されました。
英語で記載されたメールの中身は明解でした。
『あんたのWebサイトにはEtherCATに関する情報(製品の情報など)が一切ないぞ、なんか日本語の長文のコラムの記載はあるようだが……』
という、非常にまっとうな却下理由が記載されていました。
私が、
『EtherCATの連載をしようとしているから、仕様書が読みたいんだ。そこをなんとか頼むよ』
という長文の英語の請願メールを送付したところ、
『うーん、でもなぁ、やっぱり無理。それはね……』
と、理由が丁寧に記載されたメールが戻ってきました。
江端 法人のみにETGの加盟を認めている、というのは、私のような趣味のエンジニアの間口を狭くしていると思うのです。私のような個人の加盟も認めてもらうようにルール改正していただくことはできないのでしょうか。
ベッコフ日本法人社長の川野俊充さん(以下、川野さん) 江端さんの所属している会社、間違いなくETGのメンバーですよね。仕様書なんて簡単に手に入るでしょう?
江端 私は、私人としてこの連載を行っています。ですから、会社からの情報を使って執筆をすることは「週末エンジニア」としての自分の矜持(きょうじ)に反するんです。
このセリフ、1度、キメ顔で言ってみたかったのです。ようやく夢がかないました。
ETG日本オフィス representative/ technologistの小幡正規さん(以下、小幡さん) EtherCATは、オープン性と同時に、インターオペラビリティ(相互接続性)を、本当に重視しているんです。世界にたった1つでも「繋らないEtherCAT」が存在することを許すことはできないんです。
江端 しかし、インターネットの世界では……
小幡さん 私たちの世界は、インターネットとは違います。たった1つの無責任なスレーブで、製造ラインが停止することを考えてください。ETGの規約がなければ ―― 例えば、どこかの大国で、いい加減な仕様の安価なスレーブが大量生産されたとしますよね。このようなスレーブが、世界にバラまかれた時の、製造業へのインパクトは容易に想像できますよね。
江端 ……はい……、容易に想像できます。
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