産業用ネットワーク「EtherCAT」の世界を「ご主人様」と「メイド」で説明し続けてきた本連載。今回からは最終章と題し、EtherCATを開発したベッコフとEtherCAT Technology Groupの方々へのインタビューの様子を紹介していきます。今回は、EtherCATを使って感じた不満、疑問を遠慮なく、ぶつけてみました。
FA(ファクトリオートメーション)を支える「EtherCAT」。この超高度なネットワークを、無謀にも個人の“ホームセキュリティシステム”向けに応用するプロジェクトに挑みます……!! ⇒「江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る」 連載一覧
私が入社して間もないころだったと思います。
私は、当時としては驚異的なスペックであったPC3台を含む、実験システムの計画書と予算書を作っていました。
確か、HDDが80Mバイト(単位に注意!)、メモリが8Mバイト(単位に注意!!)という、脅威のウルトラスーパーハイスペックのPCでした。
その計画書を見た、予算担当の上長が怒鳴りこんできました。
「そんなぜいたくなスペックのPCが、どうして必要なんだ! しかも3台も!!」と。
実話です。本当にそういう時代があったのです*1)。
*1)性能は今のスマホの方が、圧倒的に優れているでしょう
「『どうして』って……、そりゃ、そういうPCが売られていれば、欲しいに決まっていますよ」
とは、言いませんでしたけどね(もっともらしい数字を並べたてて、言い訳に終始していました)。
しかし、その「ぜいたくなスペックのPC」のおかげで、いろいろなフリーソフトやツール(例えば、Linuxのバージョン0.1くらい)を片っ端からインストールして、遊んで……、もとい、検証することができました*2)。
*2)その当時、Linuxのカーネルコンパイルなんかやっていたら、「江端ぁ! オモチャのOSで、遊んでんじゃねーぞ!!」と叱られたものです(本当)
いろいろなソフトウェアを使ったたくさんの実験をすることもできましたし、当時としてはビックリするくらいの大きいデータを作ったり、送信したり、通信パケットの中身をのぞく実験もできました。
その「ぜいたくなスペックのPC」は、エンジニアとしての私に、さまざまな技術を試させ、そして、会社にも、たくさんの技術ノウハウを蓄積させることができた、と、確信しています。
だから私は、常々思っているんですよ。
「キラーアプリ」「キラーアプリ」と、しつこく連呼するんじゃねえ!
「大容量」「超高速」「オープン」という3つがそろった遊び場さえ与えられれば、私達エンジニアは勝手に走り出すから、そこで黙って見ていろ!
―― と。
もっとも、研究所の後輩たちには、「ターゲットを明確にして、必要な研究リソースをきちんと試算した上で、スケジュールを自己管理しながら、研究を、段階的かつ計画的に推進しなければならないぞ」と、言い続けていますが――
それがなにか?
こんにちは。江端智一です。
今回は、EtherCAT連載の最終章の前編として、今年(2016年)1月と2月に、EtherCATを開発した、ベッコフオートメーション(Beckhoff Automation/以下、ベッコフ)の日本法人に参上した時のインタビューの模様をご紹介したいと思います。
ただし、普通のインタビュー内容を記載するつもりはありません。
とても失礼で無礼で、読者の皆さんにあっては、到底質問できないような内容について、江端の心の声を交えながら、楽しく思い出しながら執筆していこうと考えています。
なにせ、私、EtherCATについては、自宅で趣味のホームセキュリティシステムを作る個人としてインタビューに参上するのであって、背中に「会社」やら「組織」やらを背負う必要はないですから。
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