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「シリコンは水晶に必ず勝てる」――SiTimeMEMS発振器メーカーの“生き残り”(2/3 ページ)

» 2016年06月02日 14時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

MEMS発振器に「技術的な制限はない」

 とはいえ、60億米ドル規模の発振器の世界市場においてMEMS発振器が占める割合は、わずか数%程度だとされている。Sevalia氏も、「MEMS発振器市場は本当に小さい」と述べる。「ただ、MEMS発振器市場は、まだ始まったばかりだ。われわれが初めて製品を投入したのは2007年だが、MEMS発振器の技術的なブレークスルーは2011〜2013年あたりに起きた。このころ当社が市場に投入した製品が、今、MEMS発振器市場を加速させている。発振器市場全体の年平均成長率(CAGR)は約5%。それに比べてMEMS発振器市場のCAGRは約65%と予測されている」(同氏)。

 MEMSがどうしても水晶に勝てない部分はないのか、との問いにSevalia氏は「確かにわれわれがカバーできていない範囲はある」と答える。同氏は「例えば、キロヘルツTCXO(温度補償水晶発振器)やメガヘルツTCXOの分野だ。ただしその理由は、顧客からのニーズの高さを見極めながら製品を投入してきたからであって、基本的に技術的な制限はないと考えている。まだ水晶が独占しているこれらの領域でも、いずれMEMSがカバーしていくだろう」と強調した。

 実際、キロヘルツTCXOの分野については2016年3月に、32kHz高精度温度補償発振器(Super-TCXO)として「SiT156x/7x」シリーズを発表した。外形寸法は1.5×0.8×0.6mm。既存の水晶のTCXOと比較して85%以上の小型化を実現したという。精度は−40〜85℃の温度範囲において、±5ppmだ。

 ただ、Sevalia氏が「タイミングデバイスは電子機器にとって、心拍のようなもの」と例えるように、極めて重要な部品である発振器を、長年使ってきた水晶から置き換えることに消極的なエンジニアは当然存在するという。「そうした時はデータを見せる。それが何よりの説得材料になる」(Sevalia氏)。

SiTime製品の仕様の一例。左は32kHz SPXOの周波数安定性を水晶発振器と比較したもの。右はジッタのデータ(クリックで拡大) 出典:SiTime

「シリコンは必ず勝利する」

 60年にわたり水晶が独占してきた発振器市場で、MEMS発振器はじわりと浸透している。Sevalia氏は「水晶を追い抜くつもりでやっている」としながらも、「長い目で見ても、発振器市場から水晶デバイスが消えることはないだろう」と述べる。「どんな分野でも、昔からの技術が使われ続けるケースはある。例えば、電流増幅器はシリコンのトランジスタよりも真空管が今でも現役で使われている用途もある。カメラ市場でいえば、現在は圧倒的にデジタルカメラが占めているが、この間日本に行った時、レンズ付きフィルムを使っている人を見かけて驚いた。発振器市場も、将来的にはMEMSが大きなシェアを獲得するとは思うが、水晶を好んで使い続けるユーザーもいるだろう。われわれの仕事は、MEMS発振器の特性を示したデータをできる限り多く示し、MEMSの優れた点を知ってもらうことと、製品をいつでも入手可能な状態にしておくことだ。あとは顧客に決めてもらえばいい」(同氏)。Sevalia氏は、「ただ、増幅器がそうだったように、シリコンは必ず勝利するとは思っている」と強調した。

 MEMS発振器は、MEMSの構造、アナログ回路、パッケージのそれぞれを最適化することで性能の向上を図っていく。「例えばMEMSの構造については、MEMS振動子の製造技術『TempFlat』を数年前に開発した。これによって振動や衝撃に強い安定した振動子を製造できるようになった。アナログ回路ではPLL(Phase Locked Loop)などの設計を最適化したことで、初めて製品を投入した2007年に比べてジッタ性能は約1000倍向上している。MEMS発振器の性能向上のためにできることは、まだたくさんある」(Sevalia氏氏)。

メガチップスとは「Win-Winの関係」

 2014年11月にメガチップスに買収されたSiTimeだが、Sevalia氏は「互いにWin-Winとなる買収だった」と話す。「“SiTime”の名前も維持しているし、当社の経営層の顔ぶれはほとんど変わっていない。これは、メガチップスとSiTimeが良好な関係を築いていることを示している。買収が行われると、人員が整理され従業員が去ってしまうのが通常のケースだからだ。SiTimeにとっては、メガチップスという財務面で安定している会社に買収されたことで、開発に投資するリソースも確保できることになる」(同氏)。

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