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MTJにおけるトンネル障壁層の重要性福田昭のストレージ通信 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(12)(1/2 ページ)

今回は、磁気トンネル接合(MTJ)を構成する主要な層の1つである「トンネル障壁層」について解説していく。

» 2016年06月10日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

MTJ(磁気トンネル接合)とMR(磁気抵抗)比

 国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第12回である。

 前回は、スピン注入型MRAMの加工寸法をどこまで微細化(スケーリング)できるかを展望した。今回からは、記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)を構成する主要な層の一部、すなわち「トンネル障壁層」と「自由層」を解説する。はじめは、トンネル障壁層について述べる。

講演のアウトラインを示すスライド。薄緑色でマーキングした部分が今回からのパート 出典:CNRS

 既に説明したように、MTJは自由層(強磁性体の金属)、トンネル障壁層(反磁性体の絶縁物)、固定層(強磁性体の金属)の3層構造を基本とする。トンネル障壁層は自由層と固定層を電気的かつ磁気的に分離するとともに、トンネル効果によって自由層と固定層を弱くつなげている。

 MTJの基本的な性能に磁気抵抗比(MR比)がある。磁化の平行状態と反平行状態における電気抵抗値の比率を示す。MR比が大きいほど、電気抵抗の違いが大きい。したがって大きな信号を取り出せる。MR比は高いことが望ましい。なおMTJでこのような電気抵抗の違いが生じる現象を「トンネル磁気抵抗(TMR)効果」と呼ぶ。

トンネル障壁材料の革新が実用化の展望をひらく

 MTJの研究開発の歴史を振り返ると、トンネル障壁層の材料に大きな革新があった。MTJのTMR効果が初めて室温で得られたのは1995年で、現在(2016年)からおよそ21年前のことである。このとき、トンネル障壁層の材料はアモルファスの酸化アルミニウムであった。得られたMR比は18%で、実用化を想定すると、まだ非常に低い値にとどまっていた。

 MTJの強磁性体内部には、異なる幾つかの電子状態(「ブロッホ状態」と呼ぶ)が存在する。アモルファス状態のトンネル障壁は、これらの異なるブロッホ状態の電子をすべて、あまり減衰させずに通すことができる。一方でMR比はブロッホ状態ごとに違う。中にはMR比がマイナスとなるブロッホ状態も存在する。アモルファス状態の酸化アルミニウムをトンネル障壁層に使用したMTJでは、これらの異なるMR比の平均的な値がMTJのMR比となるので、原理的には室温で70%くらいまでがMR比の限界とされていた。

 ところが2001年に、トンネル障壁層の材料に酸化マグネシウムの結晶を使うと、1000%を超える非常に大きなMR比が得られることが理論的に導かれた。さらに2004年にはトンネル障壁層に酸化マグネシウム(MgO)結晶を採用したMTJ素子で、180%という当時としては極めて大きなMR比が得られた。

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