MTJにおけるトンネル障壁層の重要性:福田昭のストレージ通信 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(12)(2/2 ページ)
MTJでトンネル障壁層を通過する(波動関数がトンネル障壁層に染み出す)ブロッホ状態は主に3種類ある。アルミナのトンネル障壁層は、この3種類のブロッホ状態をほぼ同じように通していた。
トンネル障壁層の材料の違いによるトンネル伝導の違い 出典:CNRS
左の図はアモルファス状態のアルミナ膜(アルミニウム酸化膜)をトンネル障壁層に採用したMTJ。3種類のブロッホ状態(桃色の矢印)の電子がトンネル障壁層を通過する。右の図は酸化マグネシウム(MgO)の結晶をトンネル障壁層に採用したMTJ。3種類のブロッホ状態(桃色の矢印)の中で、右端のブロッホ状態だけがほとんどそのまま、トンネル障壁層を抜ける。そのほかのブロッホ状態はトンネル障壁層内で著しく減衰する。
これに対して酸化マグネシウム(MgO)結晶のトンネル障壁層は、ブロッホ状態の選択性が強い。3種類の中で2種類のブロッホ状態の電子(状態密度)はトンネル障壁層内で大きく減少し、ほぼゼロになってしまう。つまり、トンネル障壁層を通過しない。残りの1種類のブロッホ状態だけがトンネル障壁層ないであまり減少せず、トンネル電流となる。
ここで極めて重要な点は、トンネル電流となるブロッホ状態が、理論的には巨大なMR比を生じるということだ。酸化マグネシウム(MgO)結晶をトンネル障壁に採用したMTJの研究は2004年以降も順調に進み、最近では実験室レベルで600%という巨大なMR比が得られた。また最近のMRAM開発ではMTJのトンネル障壁層にはほぼすべて、MgO結晶が使われている。
(次回に続く)
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