磁気トンネル接合(MTJ)は「トンネル障壁層」と「自由層」の2つで構成される。今回は「自由層」について解説しよう。自由層に適した強磁性材料と、その材料が抱える課題について説明する。
国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第13回である。
前回は、磁気トンネル接合(MTJ)を構成する主な要素である「トンネル障壁層」の役割と材料を解説した。今回は、MTJを構成する別の主な要素「自由層」を説明する。
自由層は電子スピンの注入によって磁化の方向が変化する(反転する)層であり、データを記録する(書き込む)層でもある。自由層の磁化は、ある程度は低めの電流密度(厳密には伝導電子の密度)で反転することが望ましい。
一方で、温度の熱エネルギーによって磁化反転が起こってはならない。ある程度は、磁化が固定されていることが望ましい。既に述べたように、磁化反転を防ぐエネルギー障壁である磁気異方性エネルギーは、温度とボルツマン定数の積(kBT)の60倍以上の大きさがあることが、10年のデータ保持期間を保証する条件となる。
また、前回に述べたように、MR(磁気抵抗)比はなるべく大きくしたい。高いMR比はデータ読み出しのマージンを確保するために必要である。
現在のところ、自由層に良く使われる強磁性材料は、コバルトと鉄、ホウ素の合金(CoFeB)である。CoFeB/MgO(トンネル障壁)/CoFeBの3層構造を、MTJの基本構造とする研究開発事例が多い。なおコバルトと鉄は強磁性体、ホウ素は反磁性体である。自由層とトンネル障壁層はいずれも、極めて薄い。厚みは2nm〜3nmくらいである。
もう少し具体的に説明すると、自由層とトンネル障壁層に標準的に使われる材料系は、タンタル(Ta)/コバルト鉄ホウ素合金(CoFeB)/酸化マグネシウム(MgO)の組み合わせだ。この材料系が使われる主な理由を以下にまとめよう。
などである。
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