東北大学電気通信研究所の大野英男教授、深見俊輔准教授らは2016年6月、0.5ナノ秒での情報の書き換えが可能な不揮発性磁気メモリ素子の動作実証に成功した。高度な演算をリアルタイムで処理できる超低消費電力マイコンの実現に向けて、大きく前進したという。
東北大学電気通信研究所の大野英男教授、深見俊輔准教授らは2016年6月、0.5ナノ秒での情報の書き換えが可能な不揮発性磁気メモリ素子の動作実証に成功したと発表した。今回開発した磁気メモリ素子は、実用化が迫る2端子構造とは異なる3端子構造を有し、情報の書き換えにはスピン軌道トルク磁化反転を用いている。
これにより、現行で最高クラスのSRAMと同等のギガヘルツクラスでのランダムアクセスが可能となり、超低消費電力性も兼ね備えた不揮発性メモリ素子の動作実証に成功した。IoT(モノのインターネット)時代に求められる、高度な演算をリアルタイムで処理できる超低消費電力マイコンの実現に向けて、大きく前進したという。
IoT技術が今後さまざまな分野に適用される場合、情報処理端末の中枢を担うマイコンなどの集積回路には、超低消費電力性と高速動作特性の両立が求められる。
超低消費電力性の実現には、集積回路中のメモリを不揮発化することが有効であり、これにより消費電力を100分の1以下に低減できることが示されている。しかし、顔認識や障害物検出などの複雑な処理をリアルタイムに行うには、揮発性のSRAMと同様にギガヘルツ級の周波数でランダムアクセスが可能であることが望まれる。
これまでの研究開発では、「不揮発性メモリでSRAMのような高速動作を実現できるものはなかったが、磁気メモリ(MRAM)が有力候補といえる」(東北大学)とする。
MRAMの磁性体は情報を不揮発に保持でき、無限回の磁化反転が可能。また、磁化のダイナミクスの典型的な時間スケールはナノ秒からピコ秒にあるためだ。しかし、実際には超高速に磁化を反転するのは容易ではなく、スピン移行トルクを用いて磁化反転を行う磁気メモリでは、情報の書き換えに要する時間と電流は反比例の関係にあり、高速で動かすためには大きな電流が必要となる。また、回路上の制約もあり、そのランダムアクセス周波数は実質的に30M〜100MHz程度が限界という。
東北大のグループは、2016年3月に新しい磁化反転方式の動作を実証したことを発表している(関連記事:スピン軌道トルク用いた第3の新方式、動作を実証)。新しい方式では、スピン移行トルクとは異なる物理的起源によって発現する「スピン軌道トルク」が磁化反転を誘起する。しかし、スピン軌道トルクを用いた磁化反転は、従来構造の素子で超高速応用に適した磁化反転は確認されず、磁化反転に定常的な外部磁場や比較的大きな電流を要するといった、応用上の課題がいくつかあったとしている。
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