今回発表した磁気メモリは3端子型のセル構造を有しており、書き込みと読み出しで電流経路が異なっている。これにより、大きな動作マージンが得られ、回路としてのギガヘルツ級の超高速動作が可能となった。
メモリ素子の情報の書き換えには、2016年3月に発表した新しい磁化反転方式が用いられ、チャンネル層であるタンタル(Ta)に電流を導入することで生ずるスピン軌道トルクにより、コバルト鉄ボロン(CoFeB)層の磁化方向を電流と平行、反平行方向で反転させて情報を記録。微細加工技術を用いて、従来構造と新構造のそれぞれの素子を試作して磁化反転確率の電流密度/パルス幅依存性を評価したところ、新構造の素子ではパルス幅を短くしても閾(しきい)電流密度は変化せず、0.5ナノ秒のパルスでも比較的小さな電流密度で確率100%の磁化反転を観測できたとしている。
また、構造上の工夫を施すことで、高速性を犠牲にすることなく外部磁場なしでの磁化反転を実現した。磁化反転に要する電流密度を低減するため、書き込み電流を導入するチャンネル層の材料と、その成膜方法も開発している。
開発した新材料を用いることによって、従来用いられていたTaと比べて閾電流密度を約半分に低減でき、1.9×1011A/m2という極めて小さな電流密度で、0.5ナノ秒のパルスを用いて500回中500回の磁化反転を観測することに成功したという。
なお、今回開発した一連の技術を用いて90nmサイズの素子を作製した場合、情報の書き換えに要する電流は85μA、電圧は240mVとなる。
東北大学は「今回開発した磁気メモリ素子は、待機時だけでなく動作時の消費電力も低く抑えられることから、微細化の壁に直面している半導体集積回路の救世主にも成り得る可能性も秘めている」とする。
同研究の成果は、内閣府が主導する「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」の研究開発プログラム「無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現」と、文部科学省「未来社会実現のためのICT基盤技術の研究開発」によって得られている。
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