物質・材料研究機構(NIMS)の長田実主任研究者らによる研究グループは、室温環境で動作する「マルチフェロイック薄膜」の開発に成功した。低消費電力型メモリなどへの応用が期待される。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の長田実主任研究者と佐々木高義フェローらによる研究グループは2016年6月、室温環境で動作する「マルチフェロイック薄膜」の開発に成功したと発表した。低消費電力型メモリなど、次世代多機能電子素子への応用に期待する。
マルチフェロイック材料は、磁石の性質(磁性)を兼ね備えた強誘電体である。磁場を変化させることによって誘電的な特性(電気分極)を制御したり、電圧を変化させることによって磁気的な特性を制御したりすることができる。このため、次世代の新型メモリやエネルギー変換デバイスなどへの応用が期待されている。ところが、これまで発見されたマルチフェロイック材料は、温度環境が−200℃以下でないとその特性を示さず、実用化するための大きな課題となっていた。
研究グループは今回、子供が行うブロック遊びのような、ナノ物質で積み木細工する人工超格子技術に着目した。人工超格子技術は、複数の種類の結晶格子を重ね合わせ、積層の厚みを加減したり、原子の種類を選択したりすることで、電気特性を自由に制御することが可能な技術である。今回は人工超格子技術を厚さが分子レベルのナノ物質に応用。強磁性と強誘電性が共存する人工超格子膜を作製し、室温で動作するマルチフェロイック材料の開発に成功した。
具体的には、磁石のナノシート(Ti0.87Co0.2O2)と、誘電体のナノシート(Ca2Nb3O10)を重ね合わせて、強磁性と強誘電性が共存する人工超格子膜を作製した。今回用いたナノシートは、水に分散したコロイド溶液として得られるため、水溶液プロセスによってナノシートを1層ずつ交互に積層することで人工超格子膜を作製した。ナノシート同士は、アンモニウムイオンを用いてつなぎ合わせ、強磁性と強誘電性の共存を実現した。
作製した薄膜の特性評価を行った。Ti0.87Co0.2O2とCa2Nb3O10を交互に並べた人工超格子膜において、磁場による誘電分極の制御と電場による磁化の制御を、室温環境で行えることが分かった。この膜厚は10nmと世界最薄レベルであり、室温で安定したマルチフェロイック特性を示すことを確認した。
研究グループは今回の研究成果について、「ナノ物質の組み合わせにより、マルチフェロイック機能を実現できることを証明した初めての事例」と主張する。この成果により、マルチフェロイック材料の開発に弾みがつくとみられる。さらに、多機能で低電圧動作というマルチフェロイック・ナノ薄膜の特長を生かし、低消費電力型メモリなどへの応用が期待されるという。
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