物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の土屋敬志氏らは、高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功した。低電流で大容量のメモリ開発に弾みを付ける。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の土屋敬志博士研究員(現在は東京理科大学)や寺部一弥グループリーダー、青野正和拠点長らの研究チームは2016年1月、東京理科大学の樋口透専任講師と共同で、従来に比べて素子構造が単純なため、高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功したことを発表した。
高密度で大容量の記録装置を実現するためのメモリ用素子の1つとして、スピントロニクス素子が注目されている。しかし、これまで提案されてきたスピントロニクス素子は構造が複雑で、集積度を高めることが難しく、書き込み電流も大きいことが課題となっていた。
これに対して土屋氏らの研究グループは、固体内の局所的なイオン移動を利用して、磁気抵抗効果や磁化率などの磁気特性を制御できる新しい方法を開発した。具体的には、外部電圧を印加して、固体電解質(ケイ酸リチウム)内のリチウムイオンを、磁性体のFe3O4内に挿入/脱離させる。これにより、Fe3O4の電子キャリア密度や電子構造を変化させ、磁気抵抗効果や磁化率など磁気特性を制御することに成功したという。
磁化率を制御するための素子は、Fe3O4、ケイ酸リチウム、コバルト酸リチウム、及び白金を積層する構造とした。コバルト酸リチウム/白金電極に正極性の電圧を印加すると、ケイ酸リチウム内をリチウムイオンがFe3O4の方向に移動する。さらにはFe3O4内に挿入される。
印加電圧を0Vから4Vまで増加させていくと磁化率は低下した。この変化はFe3O4内へのリチウムイオン挿入によって電子キャリアが注入され、電子キャリア密度及び電子構造が変化することに起因する。その変化量はリチウムイオンの挿入量によるもので、印加する電圧の大きさに依存する。印加する電圧が0〜2.0Vの範囲内では、印加する条件によってFe3O4へリチウムイオンを可逆的に挿入/離脱することが可能であり、磁化率も可逆的に制御することができる。
外部電圧によって磁気抵抗効果を制御できることも分かった。磁気抵抗効果を測定したところ、いずれの電圧値においても、外部磁場を印加することで抵抗が小さくなる負の磁気抵抗効果を示した。減少の度合いは印加する電圧に依存している。
従来型のスピントロニクス素子は電子移動を利用している。今回は固体内のイオン移動を利用して磁気特性を制御する技術を用いる方法を開発した。これにより素子構造の簡素化や書き込み電流を低減することが可能になるという。今回の開発成果を踏まえ、今後は高集積化のための微細加工技術などを開発していくことで、高密度かつ大容量の記録装置等への応用を目指す考えである。
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