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次世代太陽電池の評価時間を10分の1以下に短縮ペロブスカイト太陽電池の実用化を加速

大阪大学は2016年8月4日、ペロブスカイト太陽電池を高速に評価する新たな手法を開発したと発表した。通常の素子評価に比べて、10分の1以下の時間で評価することが可能という。

» 2016年08月05日 15時30分 公開
[庄司智昭EE Times Japan]

マイクロ波信号の挙動との関係性が明らかに

 大阪大学大学院工学研究科の准教授である佐伯昭紀氏と博士前期課程2年の石田直輝氏、京都大学化学研究所の准教授である若宮淳志氏は2016年8月4日、ペロブスカイト太陽電池(図1)において、生成した正孔を電極へ運ぶ正孔輸送材の性能を、データ科学的統計法と組み合わせて高速に評価する新たな手法を開発したと発表した。通常の素子評価に比べてより安定に、10分の1以下の時間で評価することが可能である。

図1:ペロブスカイト太陽電池の構造 (クリックで拡大) 出典:大阪大学

 ペロブスカイト太陽電池は、従来の無機系太陽電池に比べて材料やコストが安く、軽量で曲がるものも作れるため、次世代型太陽電池として注目されている。近年、佐伯氏の研究によって、マイクロ波の1種を用いたマイクロ波伝導度法*)が、ペロブスカイト電池の電気物性の評価に有効であることが分かっている。

*)マイクロ波伝導度法:光や放射線パルスを有機物に照射すると短寿命の電荷が生じ、電荷がマイクロ波と相互作用してマイクロ波のパワーが減少する。この現象を観察し、電荷の時間挙動やナノスケールの電荷キャリアの局所的な振動速度を評価する手法である。

 また、太陽電池素子と同じようにペロブスカイト発電層の上に正孔輸送層を塗布することで、マイクロ波信号が大きく変化することを見いだしている(図2a)。しかし、どのような材料が正孔輸送層として適しているのか、マイクロ波測定の結果をどのように解釈して材料設計へ反映させるかが不明だったという。

 佐伯氏らは今回、数種類の高分子を個別にペロブスカイト層に塗布し、マイクロ波法を用いてナノ秒〜マイクロ秒での電荷の時間挙動を評価した。青緑色のレーザー光パルスを照射すると、ペロブスカイト中に瞬間的に正孔と電子が生成し、大きなマイクロ波信号が観測される。しかし、正孔輸送層である高分子膜を塗布した2層膜では、マイクロ波信号は大きく減少し、減衰速度も速くなることが観測されたとする(図2b)。

図2a:マイクロ波法による測定概念図。レーザー光パルスが当たった瞬間に、電気の流れやすさに比例してマイクロ波の強度が時間的に変化する/図2b:ペロブスカイト膜のみのときのマイクロ波信号(黒色)と、正孔輸送層を塗布したときのマイクロ波信号(青色と赤色)。青色と赤色では、正孔輸送層の高分子の種類が異なる。矢印の大きさが正孔移動効率に相当し、赤色の方が青色より高い (クリックで拡大) 出典:大阪大学

 観測したマイクロ波信号の減少量を解析することで、正孔移動効率の時間変化を定量することに成功し、1つの材料につき4つの実験変数を抽出することに成功した。一方で、それぞれの高分子を正孔輸送層に使ったペロブスカイト太陽電子素子を作製し、素子性能を評価したところ、「ペロブスカイト発電層そのものは同一だが、変換効率は1%から17%程度まで大きく異なった」(大阪大学)と語る。しかし、素子性能とマイクロ波信号との間に、どのような関係があるのか、すぐには分からなかったという。

図3:データ化学的統計の結果、得られた初期正孔移動効率と移動速度の相関図。各点は、1つの材料に対応している (クリックで拡大) 出典:大阪大学

 そこで、実験変数を個々に扱うだけでなく、和や積などの組み合わせを検討。評価を行った8種類の高分子だけでなく、過去に行った低分子材料のデータを加え、データ科学的統計法を用いて素子性能との相関を調べた。その結果、実験変数のうち、初期正孔移動効率と移動速度の積が、太陽電池素子の短絡電流密度に最も相関することが分かった(図3)。今回明らかになった実験指標を用いることで、今後の新規の正孔輸送材開発と評価が容易になり、高効率化に向けた研究を加速できるとした。

 同研究では、添加剤の有無と大気への暴露時間が、正孔輸送材開発に影響を与えることも明らかにした。ぺロブスカイト太陽電池は、大気中の水分に反応して劣化するだけでなく、光照射や酸素の影響で逆に時間とともに性能が向上するなどの謎の挙動があった。同研究により、大気への暴露時間とともに正孔輸送材開発が徐々に上昇していることが初めて定量され、残された他の謎を解く手掛かりになることが期待される。

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