理化学研究所は2016年8月5日、有機物のモット絶縁体を利用して両極性動作する「モット転移トランジスタ」を実現したと発表した。軽量、柔軟で集積化が容易な有機モットトランジスタの開発に向けて1歩前進した。電圧だけでp型n型を制御できることから、モット絶縁体のpn接合が可能になれば、新たな太陽電池や発光デバイスの開発につながる可能性もあるという。
理化学研究所(理研)は2016年8月5日、有機物のモット絶縁体を利用して両極性動作する「モット転移トランジスタ」を実現したと発表した。
モット絶縁体とは、伝導電子を持つにもかかわらず、伝導電子が互いに反発して身動きがとれなくなり絶縁体になっている物質である。モット絶縁体の電子相転移を利用するモット転移トランジスタは、微細化において物理的な限界を迎えつつある既存のトランジスタを超える、次世代のトランジスタとして注目を集めている。
また、原理的にp型(正孔型)、n型(電子型)のどちらのドーピングでも電気が流れるため、両極性トランジスタであり、集積化にも向くと考えられている。
理研の研究グループは今回、BEDT-TTF*)分子からなる有機物のモット絶縁体を材料として、電気二重層を利用した有機モット転移トランジスタを作製した。有機物のモット絶縁体は、無機物と比べて存在する電子が少ないため、弱い電圧でも電子相転移を起こせる。電気二重層を用いた手法は、酸化シリコン膜などを用いる従来の手法と比べ、何倍も多くの正孔や電子をドーピングできる。これらにより、p型とn型どちらの場合も電気抵抗が大きく減少し、明確な両極性動作の確認に成功したという。
*)BEDT-TTF:ビスエチレンジチオ−テトラチアフルバレン。
さらに、「n型動作とp型動作をホール効果や理論計算から調べたところ、両者には、はっきりとした違いがあることも分かった」と語る。
n型のときは電子同士の反発が弱く普通の金属に近い状態である一方で、p型では特定の方向に進む電子のみが、電子同士の反発を強く感じ、動きにくくなっていることが明らかになったとする。この違いは、電子構造に起因しており、モット絶縁体の「ドーピング非対称性」と呼ばれる物理学の重要な課題の1つを解明したといえる。
今回の成果により、軽量、柔軟で集積化が容易な有機モットトランジスタの開発に向けて1歩前進したという。電圧だけでp型n型を制御できることから、モット絶縁体のpn接合が可能になれば、新たな太陽電池や発光デバイスの開発につながる可能性もある。
なお、同研究成果は、理研の加藤分子物性研究室の川椙義高氏、柚木計算物性物理研究室の関和弘氏、自然科学研究機構分子科学研究所の山本浩史氏らが実現した。
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