物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の早川竜馬主任研究員は2016年8月、コンスタンツ大学及びハンブルグ大学の研究グループとの共同研究により、1つの有機ラジカル分子を電極間に架橋させて、巨大磁気抵抗効果を観測することに成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の早川竜馬主任研究員は2016年8月、コンスタンツ大学及びハンブルグ大学の研究グループと共同で、1つの有機ラジカル分子を電極間に架橋させて、巨大磁気抵抗効果を観測することに世界で初めて成功したと発表した。研究成果は、有機分子の特長を生かした新しいスピントロニクスデバイスの開発につながる可能性が高いとみられている。
研究グループは今回、オリゴ(p−フェニレンエチニレン)分子に、ラジカル基(不対電子スピン)を結合した安定な有機ラジカル分子(TEMPO-OPE)を合成した。
そして、金属ナノ細線の機械的な破断と接合を繰り返すことで1つの分子を電極間に架橋するMCBJ(Mechanical Controllable Break-junction)法を用い、4Kという極めて低い温度環境でAu−有機ラジカル分子−Au単分子接合を形成した。電気伝導特性は10−3〜10−4G0(量子化コンダクタンス)のコンダクタンスとなり、ラジカル基を結合する前の有機分子と同程度の電気伝導特性が得られた。
形成した単分子接合について、磁場中で電気抵抗を評価した。そうしたところ、4Tの磁場で最大287%(平均値で44%)に達する巨大磁気抵抗効果を観測することができた。不対電子スピンを持たない非ラジカル分子だと、磁気抵抗率は2〜4%程度であり、ラジカル基により母体分子の電気抵抗を極めて大きく変調できることが分かった。
また、巨大磁気抵抗効果の発現メカニズムを理解するため、同一単分子接合において磁場を変化させながら電流−電圧特性の解析も行った。電流−電圧特性から算出したコンダクタンスの磁場依存性を見ると、磁場によるコンダクタンスの変化は162%の正磁気抵抗効果に相当するという。
研究グループで伝導電子の輸送過程を詳細に解析したところ、磁場を印加することで、両金属電極と分子との結合の強さを示すカップリング定数が減少することが分かった。一方、架橋された分子のエネルギー準位(E0)は、ほとんど変化しなかったという。
研究グループは今回、不対電子スピンにより有機ラジカル分子の電気抵抗を制御できる可能性を示した。また、これまでほとんど明らかにされていなかった有機ラジカル分子の電気伝導特性に及ぼす不対電子スピンの役割を、単分子レベルで理解する手がかりが得られたことも、大きな成果だとみている。研究成果は、超高速動作で高集積可能な有機分子によるスピンエレクトロニクスデバイスの開発に弾みを付ける。
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