東北大学のZhiyong Qiu助教と齊藤英治教授らの研究チームは、スピン流を用いて超薄膜物質の磁性を観測することに成功した。超薄膜試料の磁気特性を比較的簡便に測定できる手法の開発によって、スピントロニクス分野の進展に弾みをつける。
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)/金属材料研究所のZhiyong Qiu助教と齊藤英治教授らの研究チームは2016年8月、スピン流を用いて超薄膜物質の磁性を観測することに成功したと発表した。超薄膜試料の磁気特性を、比較的簡便に測定できる手法の開発によって、スピントロニクス分野の進展に弾みをつける。
研究グループは今回、磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG:Y3Fe5O12)層と白金(Pt)層の間に、膜厚が3〜10nmと極めて薄い磁性体の酸化コバルト(CoO)層を挟んだ3層構造の試料を用意した。
実験では、スピン流を生成する方法としてスピンポンピング技術を用いた。この技術は、静磁場とマイクロ波を特定の条件で、YIG層に印加すると強磁性共鳴が起き、YIG層中のスピンが一斉に回転する。スピンの回転によって隣接する層にスピン流を生じさせる方法である。
YIG層から注入されたスピン流は、CoO層を通過してPt層へと到達する。Pt層では注入されたスピン流が逆スピンホール効果によって、電圧に変換される。この電圧は、CoO層のスピン伝導度(スピン流の流れやすさ)が反映されたものとみられる。
測定した電圧信号の温度依存性を調べた。そうしたところ、ピーク値は温度に依存しており、CoO層が常磁性体から反強磁性体へと相転移する温度(ネール温度)近傍であることが分かった。具体的には、相転移近傍ではスピン流が流れやすく、高い電圧を示した。これに対して低温の反強磁性層ではスピン流が流れにくく、低い電圧が観測された。また、ピーク値は強磁性共鳴の周波数に依存し、低周波ほど大きくなることが分かった。これはスピン伝導度を通じて、CoO層の磁気的な運動の時間スケールを反映しており、CoO層の詳細な磁気情報を反映したものだと、研究チームではみている。
今回の研究成果により、スピン流の流れやすさは、超薄膜中の磁性を反映していることが明らかとなった。しかも、より簡便なスピンポンピング技術を活用して、新たな超薄膜の物性測定を可能とした。これまでのように大型の設備を用いなくても測定できるため、反強磁性体を利用したスピントロニクス分野の発展に貢献できる可能性が高いとみられている。
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