リチウムイオン電池は、ソニーが商用向け製品として改良する以前は、軍用機向けとして使われていた。現在使われている溶液の一部は、リチウム溶液を、リチウムイオンまたはコバルト酸リチウムで中和している。ここで最も重要なのが、空気への暴露を抑えられていた化合物が酸素に触れると、その過程で温度が上昇し数ミリ秒以内に炎上する可能性があるという点だ。
Dell、HP(Hewlett Packard)、東芝製のノートPCの他、Chevyの「Volt」やTesla Motors(テスラモーターズ)の「Model S」といった電気自動車、さらにはBoeing(ボーイング)の最新鋭ジェット旅客機「787」でも、バッテリーが発火するケースが報告されている。コンピュータのバッテリー発火に関しては、製造プロセスでの欠陥が原因である。具体的には、金属の微細な削りくずが誤って電解膜に入り込み、フィルムに穴を開けた結果、その周りにあるアソード・カソード間が短絡してすさまじい熱が発生したのだ。近年、バッテリーの製造プロセスが改善されたことにより、コンピュータのバッテリー発火事故の件数は激減している。
Teslaのバッテリー発火は、自動車がカーブのある坂道を登る際、車体の底面にあるバッテリーケースが破裂したのが原因だった。Boeingは787のバッテリー発火事故の後、リチウムイオン電池の使用は飛行能力に影響を与えなかったことを、FAAと787の潜在的な乗客に理解してもらうため、多大な労力を費やすことになった。787には2基のリチウムイオン電池パックが搭載されているが、1基は飛行機が地上にいる際にジェットエンジンを起動するため、残りの1基は乗客に快適さをもたらすシステムの出力に用いられていた。Boeingは念のためバッテリーケースの封印を再設計し、内部短絡した場合でもさらなる酸素暴露が確実に起こらないようにした(つまり、爆発が起こらないような仕組みにした)。
米国消費者製品安全委員会は、2008年になってようやく3万5000台のノートPCのバッテリーをリコールした。一方、今後リチウムイオン電池が発火する可能性について、専門家のコメントは、「問題ない」「厳重に警戒すること」など、まちまちなトーンである。とはいえ、リチウムイオン電池は安全であり、突発的な故障はまず起きないというのが専門家の総意といえる。リチウムイオン電池は慎重に扱う必要があると警告されていて、バッテリー周辺の制御回路も、その点を十分に考慮して設計されなければならない。リチウムイオン電池は、放電および(加熱の原因となり得る)過充電が厳禁とされている上、極性反転も避けるべきといわれている。
リチウムイオン電池は毎年何億個も生産されていることから、スマートバッテリー向けの充電コントローラー(バッテリーマネジメントICとも呼ばれている)市場はおよそ16億〜18億米ドル規模になっている。バッテリーマネジメントICは、その機能からは驚くほど安い価格(平均販売価格は50セント以下)で大量に売られている。同市場をけん引する企業の多くが、精密な信号調整・制御を実現する技術を備えている。
訂正とお詫び:掲載当初、本記事のタイトルを「FAAが機内持ち込み禁止を勧告」としておりましたが、FAAは「機内での使用と充電の禁止、預け入れ荷物に入れることを禁止」を発表しております(参考)。訂正して、お詫び致します。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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