早ければ2017年にも運用試験や一部商用化を実現するという通信事業者(キャリア)の意気込みとはうらはらに、5Gの規格策定作業はまだ初期段階にあるという。
移動通信システムの標準化プロジェクトである「3GPP(3rd Generation Partnership Project)」は現在、5G(第5世代移動通信)規格の策定を進めている。だが、3GPPの会議に出席した米国Qorvo*)のエンジニアであるFrank Azcuy氏は、「5G規格の策定はまだ初期段階にある」と語っている。早ければ2017年にも運用試験と一部商用化を実現するという話とはうらはらに、5G規格は2019年末までは完成する見込みはなく、5G規格の商用化は2020年以降に持ち越される見通しだ。
*)Qorvoは、TriquintとRF Micro Devicesが合併して誕生したワイヤレスチップメーカー。
3GPPは、5G規格の策定業務を2段階に分け、2018年9月までに第1弾をリリースする計画だという。第1弾では、新しい低レイテンシ通信のサポートによって6GHz帯以下のブロードバンドサービスの強化を目指す。
3GPPは、第1弾が順調に動作することを確認するために、2018年5月に事前リリースを検討しているという。
3GPPの代表を務めるQorvoのAzcuy氏は、「5G規格を事前リリースせず、あらゆる企業がわれ先に運用試験やデモを行おうとすれば、標準規格の派生版が出てきて、将来的にさまざまな問題が発生する恐れがある。そうした事態を避けるためにも、3GPPは基本的に、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)が設定したスケジュールを順守する方針だ」と述べている。
通信キャリアの中には、28GHz帯以上のミリ波帯を使ったサービスの運用試験を実施しているところもある。ただし、5Gのミリ波やマシン型通信(MTC:Machine Type Communications)の標準規格は、2019年12月頃に策定予定の第2弾に含まれるという。
Qorvoはこれまで、軍用システム向けからミリ波帯の5G向けシミュレーションパラメータの設定ガイドまで、さまざまな低ノイズアンプ(LNA:Low Noise Amplifier)の仕様を提供してきた。Azcuy氏によると、ある3GPPワーキンググループは、ミリ波システムに適切なリンクマージンを10〜13dBに決定したという。
Azcuy氏は、「標準規格の第2弾の策定は28GHz帯から開始し、40GHz帯や70GHz帯向けにどのような変更を加えるかについて協議した。しかし全体的に見て、5G規格の策定はまだ初期段階にある」と述べている。
同氏は、ユーザー機器の送受信仕様に関して定めた「RAN-4」など、5Gの無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)を手掛ける6つの3GPPグループのうち2つに在籍している。QorvoのLNAやパワーアンプ、位相調整器、コンバータなどのフロントエンドチップは、5Gがどのような仕様であっても同規格を実現できるものでなければならない。
多くの標準規格に対する取り組みと同様に、3GPPのエンジニアチームはマルタ共和国や中国の南京など、世界各地で定期的に会議を開いている。直近の会議は、スウェーデンのヨーテボリで開催された。Azcuy氏は、「2016年10月にスロベニアで開催される次回会議では、核心的な仕様がさらに決定される見通しだ」と述べている。
5Gにおいて最大の課題の1つが、無線インタフェースがどうなるかだ。これまでに、企業や研究機関などがOFDM(直交周波数分割多重方式)をベースにしたものを、新興企業がまったく新しいコンセプトを提唱している。Azcuy氏は「2017年初頭から半ばころまでには、収集したデータを基に何らかの意見がまとまっている必要があるだろう」と述べた。
もう1つの主要な課題として、ミリ波帯対応フェーズドアレイアンテナについての規格の策定だ。ミリ波帯における大規模MIMO(Massive MIMO)は、特に都市部において数Gビット/秒の通信速度を実現するための鍵とされている。ただしAzcuy氏は「まずは6GHz以下について、議論される予定だ」と述べた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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