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銅を自然酸化、巨大なスピン軌道トルクを生成希少金属に頼らないスピントロニクスデバイス

慶應義塾大学の安藤和也准教授らは、銅を自然酸化させるだけで、白金を超えるスピン軌道トルクを生み出せることを発見した。レアメタルを使わずにスピントロニクスデバイスを実現することが可能となる。

» 2016年10月14日 07時00分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

これまでの常識を覆すアプローチ

 慶應義塾大学理工学部の安藤和也准教授らは2016年10月、銅を自然酸化させるだけで、白金を超えるスピン軌道トルクを生み出せることを発見したと発表した。これにより、レアメタルを使わずにスピントロニクスデバイスを実現することが可能となる。

 安藤氏らは、強磁性体であるパーマロイ(鉄とニッケルの合金)と銅で構成されるナノ薄膜を基板上に作成し、試料として用いた。そして、スピントルク強磁性共鳴という現象を利用して、試料中の銅に流れる電流によって生成されるスピン軌道トルクを精密に測定した。

スピン軌道トルクを測定するための試料の模式図 出典:慶應義塾大学、科学技術振興機構

 実験では、ギガヘルツの高周波電流を流しつつ、外部磁場の大きさを変えながら、試料に生じる直流電圧を測定した。共鳴時には、磁化の運動と高周波電流の整流効果により直流電圧が現れる。この直流電圧の形状を解析することで、スピン軌道トルクの大きさを見積もった。

 スピントルク強磁性共鳴の測定には、3タイプのナノ薄膜を用意した。自然酸化を防ぐために表面をキャップ層で保護した銅、自然酸化を制御するためにキャップ層を薄くした銅、そして自然酸化するようキャップ層をなくした銅である。

スピン軌道トルクの測定結果。左は自然酸化を防ぐために表面を保護した銅、中央は自然酸化を制御するためにキャップ層を薄くした銅、右は自然酸化した銅の事例。いずれも上段は試料の模式図、中段はスピントルク強磁性共鳴の測定結果、下段はスペクトル形状から求めたスピン軌道トルクの生成効率を示す図 (クリックで拡大) 出典:慶應義塾大学、科学技術振興機構

 自然酸化を防ぐために、銅の表面をキャップ層で保護した試料は、スピン軌道トルクの生成効率が0.1%以下と非常に小さい。表面のキャップ層を薄くして、銅が少し自然酸化するように制御した試料では、生成効率が5%程度まで大きくなる。これに対して、キャップ層をなくし自然酸化した銅の試料は、スピン軌道トルクの生成効率が10%を超えるなど、極めて大きくなることが分かった。この数値は、白金などレアメタルスピントロニクス材料を上回る効率だという。

 また、自然酸化ではなく、銅の成膜時に酸素を導入して銅全体を一様に酸化させた試料についても同様の実験を行った。これらの実験から、自然酸化で現れたスピン軌道トルクは、酸化した銅層と銅の界面ではなく、自然酸化した銅内部の電子輸送の変化に起因することを突き止めた。酸化の度合いを増すことで効果が高まることも分かった。

 これまで、スピン軌道トルクの生成には、白金やパラジウムといったレアメタルを用いることが必須とみられていた。今回の研究成果はその常識を覆し、銅のようなありふれた金属を酸化するというアプローチで、スピントロニクスデバイスを実現できる方法を示したことになる。

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