今回の大統領選の結果を受け、私は初めて選挙の仕組みについて勉強をしてみました*)。
*)例えば、「選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?」(ウィリアム・パウンドストーン著 青土社 2008年)などを読みました。
そして、「自分が『いいな』と思った人に投票する」という単純明解な選挙というシステム自体に、民意を反映できないパラドックスが自動的に仕込まれる*)という事実を知って、びっくりしています。
*)例えば、「アローの不可能性定理」などです。
これは、どんな選挙の仕組みをプログラミングしても、そこに、取り除くことができないバグが運命的に仕込まれ、そのことを皆分かった上で、それでも、なお、私たちは選挙というプログラムを実行しなければならない、ということです。
合衆国大統領選挙も、私にとっては理解不能で不思議な投票方式が運用されています。
ひと言で言えば、「投票数で大統領が決まるわけではない」という投票方式です。
大統領選挙は、州ごとに勝ち負けを決める選挙です。しかし「勝った州の数が多い方が勝ちというわけでもない」のです。
各州には、(おおむねその州の人口に応じた)“持ち点”があり、その持ち点の総計の多い方が大統領として選ばれます。この持ち点のことを選挙人といいます。その州で勝利した党が、その選挙人の投票数を全て総取りできるのです。
例えば、アラスカ州で勝っても3点しかもらえないのに、カリフォルニア州で勝つと55点もらえるのです。そして、この3点とか55点は、2人の候補者で分けることができません。例えば、カリフォルニア州で勝てば55点は自分のもので、負ければ0点となります。
で、この点数(選挙人)を合計すると全米で538点になります(なんで、わざわざ偶数のままにしておくのかも気持ち悪いですが)。その半数の269点に1点を加えた270点となった段階で、大統領選の勝利が確定する、ということです。
―― どうです、このすさまじいまでの分かりにくさ。
この訳の分からない投票の仕組みの理由については後述致しますが、今は、投票数の多かった人や、多くの州で勝利した人が、必ずしも大統領選で勝者となれるわけではない、ということだけ理解していただければ十分です(実際、今回の選挙でも、有権者投票数では50.08%対49.92%でクリントンさんが過半数を取得していますし、2000年の大統領選(ブッシュ対ゴア)においては、票の数え直しを求めて裁判になったこともあります)。
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