東北大学の遊佐剛准教授らの研究グループは、原子核スピンの状態を顕微鏡で観察することに成功した。分数量子ホール液体と核スピンの相互作用を解明するための重要な成果となる。
東北大学大学院理学研究科の遊佐剛准教授とジョン・ニコラス・ムーア博士課程後期学生、物質・材料研究機構(NIMS)の間野高明主幹研究員、野田武司グループリーダーらの研究グループは2017年2月、原子核スピンの状態を顕微鏡で観察することに成功したと発表した。分数量子ホール液体と核スピンの相互作用を解明するための重要な成果となる。
半導体ナノ構造の核スピンを観察する手法として、マイクロメートルやナノメートルレベルの撮像を可能にする、新たな磁気イメージング(MRI)法が主要な機関で研究されている。東北大学らの研究グループは今回、走査型偏光選択蛍光分光顕微鏡と核磁気共鳴(NMR)技術を組み合わせた、複数の核スピン測定技術を開発した。
その中心となるのが光検出磁気イメージング(光検出MRI)法と呼ぶ技術である。半導体の試料(半導体ナノ構造)に光を照射すると、核スピンの状態によって試料から放出される発光強度がわずかに変化する。このわずかな変化を捕らえて可視化する。光検出MRIは、光の波長限界(1μm)程度の空間分解能を実現できるという。
半導体の界面など、二次元構造に閉じ込められた電子に、磁場を垂直にかけ極低温に冷やすと、分数量子ホール液体として振る舞うことはすでに知られている。しかし、そのメカニズムはこれまで解明されていなかった。そこで研究グループは、新たに開発した核スピン測定技術を用いて、高純度半導体のナノ構造試料を観察した。この結果から、「完全強磁性相」と「非磁性相」という2つの異なる分数量子ホール液体が、しま状の空間パターン(磁区構造)を形成し、その境界で核スピンと強く相互作用をしていることが分かった。
開発した光検出MRI技術は、核スピンの向きを含めた偏極度、核スピンの縦緩和時間、スピン拡散距離などの計測も、約1μmの空間分解能で行うことができる。このため、核スピンに関連した半導体スピントロニクスや量子デバイスの研究にも活用することが可能だという。将来的には、紫外から赤外領域の広い波長範囲で、半導体以外の材料系にも光検出MRI技術を応用していく考えである。
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