東北大学の谷口耕治准教授らは、リチウムイオン電池の充放電特性を利用したイオン制御型電磁石の開発に成功した。イオンの出入りを制御することで磁性状態を切り替えることが可能となる。
東北大学金属材料研究所の谷口耕治准教授と宮坂等教授らは2017年1月、リチウムイオン電池の充放電特性を利用したイオン制御型電磁石の開発に成功したと発表した。消費電力が極めて低い不揮発性の電磁石として新たな応用が期待される。
研究グループは、金属錯体からなる分子性格子材料(金属−有機物骨格体)において、イオンと電子の出入りを制御すると、磁性状態が切り替えられることを見出し、これを可能とする電磁石の開発を行ってきた。
今回、常磁性である水車型ルテニウム二核(II、II)金属錯体と、非磁性で電気的中性のテトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体からなる新たな中性層状化合物を開発した。リチウムイオン電池の正極用に開発した分子層状化合物を用いることで、リチウムイオンの脱挿入を介して分子格子への電子注入量制御を可能とした。これによって、常磁性状態(磁石でない状態、充電時)とフェリ磁性状態(磁石の状態、放電時)を可逆的に切り替えることに成功した。
放電時には、骨格のTCNQ部位に電子が挿入されてラジカル状態となる。そうすると常磁性の水車型ルテニウム二核(II、II)金属錯体のスピンと長距離磁気秩序を形成してフェリ磁性体となり、同時にリチウムイオンが層間に挿入される。これによって、安定した人工磁石となる。充電時は、その逆の反応を示し、中性の化合物に戻るという。
研究グループは、主な磁気特性を測定するため、開発した化合物をリチウムイオン電池の電極として組み込み、磁性の電池電圧依存性を調べた。そうしたところ、非磁性のTCNQ誘導体に1電子が導入されたラジカル状態になると、磁石としての性質が発現することが分かった。さらに、リチウムイオン電池の充放電操作と連動して、磁性状態を切り替えられることも明らかとなった。
研究グループでは今後、室温において高速動作が可能な材料の開発に取り組んでいく計画である。
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