中国DJIのドローン「Phantom 4」には、28個ものCPUが搭載されている。CPUの開発で先行するのは依然として米国だが、それを最も明確に追っているのは中国だ。だが分解を進めるにつれ、「搭載するCPUの数を増やす」方法が、機器の進化として、果たして正しい方向なのだろうかという疑問が頭をよぎる。
本連載の前々回「まるで“空飛ぶプロセッサ”、進化する中国ドローン」で扱った中国DJIのドローン「Phantom 4」の追加情報を今回も掲載する。DJIのPhantom4には実に27個ものCPUが搭載されていることを報告した。今回はその具体例を紹介したい。
図1は、カメラ雲台(Gimbal)に採用される米Ambarellaのカメラ用プロセッサ「A9」のチップ開封の様子である。
A9チップは、映像機器関連で採用が多く、DJIのDroneのみならず、アクションカメラで有名な「GoPro」、ドライブレコーダーや監視カメラにも搭載されている。DJIは、このカメラプロセッサにソニーのCMOSセンサーを組み合わせてPhantom 4の雲台を構成している。
このチップは図1に掲載するように、仕様(内部ブロック図)が公開されていて、3つのCPUと、ビデオやイメージ処理を行うDSPから構成されていることが明らかになっている。3つのCPUとは、ARMのコア「Cortex-A9」を2基と、「クラシックARM」と呼ばれる若干古いARM CPUコア「ARM11」だ。
図1の右下図は、実際のチップを開封し、CPU部分だけを着色した図面である。筆者は前職ではCPUコアを開発する部署に約10年所属し、実際にCPUやDSP、アナログIP(Intellectual Property)を20種ほど開発してきた経緯を持っている。そのため今も多くのチップをパターンや形状から高い精度で分析できる。
しかも毎週10チップほどを開封し、常に新しいものも観察を行っている。判定したチップはひょっとすると日本一かもしれないと自負しているほどだ。ほとんどのチップは形状やI/Oからの位置関係、基板との接続情報から、内部の8割くらいまでは判定することができる(さらにはチップサイズやプロセステクノロジー、回路構成などから原価計算も可能だ)。
チップ開封後、弊社ではチップの内部構成を分析する。チップ上に形成される配線層を除去し、内部の構造を可視化してCPU部分だけ着色したり、A-Dコンバーター、USBの部分などを判定したりする。
図2は、DJIのPhantom 4に搭載される、全CPUの抽出結果を並べたものである。前々回では「CPUを27個搭載している」と紹介したが、1つ1つのチップを開封し、くまなく内部を観察した結果や、各半導体メーカーのHPや過去のチップ発表資料などを調べて、CPU数をカウントし直したところ、全部で「28個」のCPUが搭載されていることが判明した。
「28個」とは、とんでもない数である。TVやPCなどわれわれの日常生活で身近な家電やコンピュータにもCPUは必ず搭載されている。しかしせいぜい2個、多くても数個程度である。だが、DJIのドローンには、28個という、一般的な数の実に数倍から10倍近い数のCPUが使われていることがあらためて明確になった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.