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Nintendo Switchのチップ解剖から考えるデグレード版Tegra X1を選んだ理由この10年で起こったこと、次の10年で起こること(14)(2/3 ページ)

» 2017年03月29日 11時30分 公開

米国ではなく“ドイツ”

 本連載の第11回(初代ファミコンとクラシックミニのチップ解剖で見えた“半導体の1/3世紀”)で報告した「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」は“いつ、どこで、だれが”の情報記載されておらず「任天堂(漢字)+MADE IN CHINA」の文字が搭載されているだけであった。しかしNintendo Switchではドイツにある任天堂ヨーロッパの住所、2016年という年号が記載されている。この情報から「2016年にドイツで開発されたもの」だと推測される。任天堂は新たな半導体プロセッサを開発するところからゲーム機を作ってきた。そのためにIBMやAMDといった米国を代表するプロセッサメーカーとともに仕様を決めて、チップ開発を行ってきたことは先に述べた。

 しかしNintendo Switchでは米国ではなく、“ドイツ”のネーミングが刻まれている。

2015年発売の「Tegra X1」と同じ!?

 図3は、実際にNintendo Switchを分解し、メインのプロセッサ「ODNX02-A2」をチップ開封した様子である。

図3:スイッチのプロセッサはNVIDIA Tegra-X1 (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 筆者が代表を務めるテカナリエではNintendo Switchの発売前から、NVIDIAのアプリケーションプロセッサ「Tegra」の全てのバージョンに対してチップ開封を行っている。そこで過去のTegraのチップ開封で得た情報と照らし合わせたところ、Nintendo Switchが搭載するプロセッサは2015年発売の「Tegra X1」と同じものであることが判明した。

 Tegra X1はどのようなプロセッサなのだろうか。実際にはゲーム機のみならず車の自動運転システムやインフォテインメントシステム、GoogleのAndroidタブレット「Pixel C」などで広く活用されるプロセッサである。CPUにはARMの64ビットプロセッサ「Cortex-A57」「同A53」が各々4基ずつ搭載される。GPUはNVIDIA独自のGPU内部アーキテクチャ「Maxwell」が活用されCUDAが256基も搭載されるGPUリッチなSoCだ。チップにはカメラISPやビデオデコーダー/エンコーダーなども搭載されている。

 2016~2017年にNVIDIAはFP64(64ビット浮動小数点演算性能)のアーキテクチャを強化し、FP16を扱える新世代のGPUアーキテクチャ「Pascal」を採用したGPU製品群を発売しており、Tegra X1はその点で1世代前のプロセッサという位置付けになっている。Tegra X1の後継チップ「Parker」も発表されており、こちらはPascal世代GPUとNVIDIAの独自開発によるARM準拠コアDenver2が採用されるチップとなっており、Tegra X1は2017年の時点では「CPU」も「GPU」も共に1世代前のものということになる。

 Nintendo Switchの発売にあたり、NVIDIA Tegraのカスタマイズチップを活用との情報を明らかにしている。しかしチップ開封によってシリコンは、Tegra X1と全く同じものであることは判明している。どんなカスタマイズを行っているのだろうか。答えを図4にまとめた。Tegra X1は、Nintendo Switchだけでなく、車載用途から、ホーム機器まで多くの製品に使われている。その中で最も機能を使っている(製品側の仕様書から)ものが、NVIDIA自身が発売する「Shield Pro」というホーム・エンターテインメント機である(車載の場合にはカメラ画像処理プロセッサなどの機能は使わない!!)。

図4:ピン数を落としデグレードで「速さ」を選択 (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 Shield Proに使われるTegra X1のチップパッケージは「1232」端子を持っている。一方Nintendo Switch向けのTegra X1は「960」端子。実に22%端子数が削減されている。単純計算になるが、おおよそ5分の4しか機能を使っていないことになる。「カスタマイズされたTegra」という表現は正しい。グレードアップのカスタマイズではなく、デグレードされたカスタマイズということなのだろう。これもカスタマイズであることは間違いない!!

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