物質・材料研究機構(NIMS)は、水酸化物イオン伝導性が従来に比べて10〜100倍と極めて高い値を示すナノシートを発見した。水酸化物イオン駆動型固体燃料電池の実現に大きく近づいた。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の馬仁志准主任研究者や佐々木高義拠点長らの研究グループは2017年4月、水酸化物イオン伝導性が従来に比べて10〜100倍と極めて高い値を示すナノシートを発見したと発表した。「この値は無機アニオン伝導体の中でも世界最高」と主張する。
燃料電池は現在、電解質として水素イオン伝導体を用いる方式が主流だという。ところが、使用できる触媒が白金系金属に限定されるなど課題もある。伝導イオンに部材コストの安い水酸化物イオンを用いることも可能だが、既存の水酸化物イオン伝導体は、イオン伝導率が10-3〜10-2S/cmと低かった。そこで研究グループは、水素イオン伝導体と同等のイオン伝導率を持つ材料開発に取り組んできた。
研究グループは今回、化学反応によって層状複水酸化物を層1枚にした単層ナノシートを作製した。このナノシートは厚みが約0.8nmと分子レベルで、横方向は数マイクロメートルと広い表面積を持った2次元物質である。作製したナノシートをくし形の微小電極に堆積させ、シート面内方向に沿ってイオン伝導特性を測定した。
この結果、温度と相対湿度が上昇すると、ナノシートのイオン伝導率は増加することが分かった。60℃で80%RHの環境ではイオン伝導率がほぼ10-1S/cmに達した。この値は、これまでのアニオン伝導体の中では最も高く、実用化されている燃料電池に採用されているカチオン交換膜「Nafion」のプロトン伝導率に匹敵する値だという。
研究グループは同様に、はがす前の層状複水酸化物板状結晶についても、くし形の電極上に堆積し、横方向に沿ってイオン伝導特性を測定した。そうしたところ、イオン伝導率は10-4〜10-3S/cmとなり、ナノシートに比べて極めて小さいことが分かった。このことから、ナノシート化することによって、イオン輸送特性が大きく向上したことが明らかとなった。
これらの理由として研究グループは、単層ナノシートの表面がより多くの水分を吸着し、水酸化物イオンが自由に動くことができるようになったため、それに応じてイオン輸送特性が著しく向上したと考えている。
研究グループは今後、燃料電池や水電解装置の開発に向けて、発見したナノシートを固体電解質材料として応用していく予定である。
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